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魔法少女リリカルなのは 〜最強のお人好しと黒き羽〜
第十六話 やり直し
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台所から材料を切る音が聞こえてくる。
それは一定のリズムで刻まれる音。
料理慣れしている人の音は、聞いていて指を切るんじゃないかという不安を抱かせる隙を与えず、むしろ心地よさすらも感じさせていた。
「柚那っていつから料理始めたんだ?」
「ちょうど一年前」
「……包丁さばきからしたら三年以上はやってそうなんだけどな」
雪鳴の回答に驚き、少しだけ思考が停止してしまったが、徐々に回復した思考が納得させていく。
再会してまだ少ししか経過していないけど、柚那が責任感の強い子なんだっていうのが分かった。
一年前……つまり去年といえば、雪鳴が右腕を負傷した年。
恐らく柚那は、自分が傍にいながら雪鳴を負傷させてしまったことに責任を感じ、自分なりにできることを覚えたのだろう。
それが料理であり、柚那はこの一年で必死に努力したんだ。
「俺も一人暮らしを初めてからは自炊してるけど、こんなに必死になってないな」
姉さんが起きた時、色んな面でサポートできるようにと料理に手をつけているけど、どこまで必死にやってるかと聞かれれば大したことはしていない。
人並みに料理して、人並みに満足している。
柚那ほど必死になって、満足しないで努力するなんてことはできてない。
「柚那って、凄いな」
「自慢の妹」
無表情ながらもどこか誇らしげな雪鳴に、俺は微笑を浮かべながら頷く。
俺には妹はいなかったから、妹がどういう存在なのかよくわからない。
だけど、もし姉さんだけじゃなくて妹がいたとしたら……。
「やっぱりちょっと、羨ましいな」
そんな風に思ってしまう。
甘えん坊だけど優秀な姉に、真面目で責任感がある優しい妹。
それは妄想でしかないけれど、そんな人生だったら今の俺はこんな人じゃなかったかもしれない。
そう思ってしまうのは、家族と言うものが恋しいと思っているからかな?
感傷に浸る俺の右頬に柚那の手が触れる。
「ど、どした?」
ひんやりと冷たい手に驚いた俺は慌てて振り向くと、そこには瞳に涙が溜まり、今にも流れそうな雪鳴がこちらを見つめていた。
何がどうしてそうなっているのか混乱し、言葉を失う俺に雪鳴は掠れ、震えながらも言葉を紡ぎだす。
「私も、黒鐘の家族になりたかった。 そうすれば、黒鐘を独りにしないで済んだ」
「っ――――!?」
息が詰まるほどの驚愕が俺の全身を襲い、頭は鈍器で殴られたんじゃないかってくらいに揺さぶられた。
記憶に蘇るのは、五年前のあの日――――。
無力な俺が経験した、人生最大の喪失。
一夜にして家族全員を失い、孤独になったあの日あの時。
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