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トスカ
12部分:第二幕その五
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牛の乳から作ったのですよ」
トスカ      「(いきなり声をかけられて驚いた顔になり)えっ!?」
 驚いた顔で彼を見る。
トスカ      「まだ何も言っていませんが」
紅い男     「ははは、聞こえましたよ」
トスカ      「そうですか、すいません。しかし牛の乳からですか」
紅い男     「(にこやかに笑って頷く)はい、そうです」
トスカ      「それで服が作れるのですか」
紅い男     「少しコツがありましてね。いずれ皆が着られるようになります」
トスカ      「(信じられないといった顔で)はあ、それは」
紅い男     「それでです」
 ここで話を変えてくる。
紅い男     「実は貴女にお渡ししたいものがありまして参上しました」
トスカ      「私にですか」
紅い男     「そうです、これです」
 懐からある物を取り出してきた。それは銀色に輝く大きなロザリオであった。
トスカ      「ロザリオですか」
紅い男     「貴女にはよく似合うと思いまして。きっと貴女を護ってくれるでしょう」
トスカ      「御護りですか」
紅い男     「はい、貴女だけではありません」
トスカ      「私だけではないと」
紅い男     「貴女の愛しい方もまた」
トスカ      「有り難い申し出ですが」
 弱った顔になる。
トスカ      「あの人はあまりこういったことは」
紅い男     「そんなことはありませんよ。このロザリオに貴女も彼もきっと感謝される筈です」
トスカ      「そうでしょうか」
紅い男     「そうです、ですから」
トスカ      「そこまで仰るのなら。是非」
紅い男     「はい、どうぞ」
 ロザリオを受け取る。そうして懐の中に収める。その時スカルピアは広間の端で一人呟いていた。
スカルピア   「アンジェロッティに逃げられたことは痛いな。公爵夫人はここぞとばかりに陛下に讒言してくる。きっと今でも」
 ちらりと王妃を見る。見れば王妃と公爵夫人が話をしている。スカルピアはそれを見てあらためて不機嫌な顔になる。
スカルピア   「くそっ、あのイギリス女が余計なことを言わなければ。どいつもこいつもわしの失脚を狙っている。一体どうすればいいのか」
 忌々しげに飲みかけの杯を置く。長く溜息を吐いた。高ぶりだしていた気えお落ち着かせてからまた呟く。
スカルピア   「落ち着け。だとすれば逃げた男を捕まえれば良い。おそらくマリオ=カヴァラドゥッシが匿っている筈だ。あの男を探し出せばそこにアンジェロッティもいる」
 そう思い直して思案に入る。
スカルピア   「だが用心深い奴のことだ。姿を現わす頃にはアンジェロッティは高飛びしている。奴は
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