ありがとう!(T幸世の半生)
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と、言った。携帯電話から「昌五君、電話だよ」と、呼んでいる声が聴こえた。幸世は電話を切った。次に幸世は、昌五の予備校に電話した。「高木昌五さんは、暫く登校していません」の、返事だった。幸世は、沈痛な思いに駆られた。正午ごろ、幸世は支店に出社した。幸世は、元気が無かった。閉店の間際、建一が売上金を携え訪れた。「先程は有難う」と建一が言うと「此方こそ、沢山頂いて有難う御座います」と、幸世が、軽く微笑みながら言ったが、表情は暗かった。今日、幸世が道の駅に来てくれて建一の心は和んでいたが、支店からの帰路は、幸世の表情が心配になった。幸世は以後、建一が支店に現れる日を予測して、自らの軽乗用車のトランクの鍵を開けておく様になり、建一は、周囲から気付かれない様に、レジ袋をトランクに入れ、幸世の紙袋を持ち去る日々が続いた。2
資産家の御曹司で、イケメンで独身の支店長・信雄は、この町のネオン街の女性にも人気があり、女癖が悪い噂は、幸世の耳にも入っていた。信雄が支店に着任してから時々、スーツ姿の女が、信雄を訪ねて来る様になった。キャリアウーマンの感じの女で、年齢は信雄と同じ30歳位に見えた。在る日、その女が窓口で幸世に「信ちゃん、居ますか?」と、聞いた。随分、親しげな呼び方だった。幸世は「支店長ですか?」と、聞くと、女は「そうよ」と、答えた。幸世が「どちら様ですか?」と、聞くと、女は名刺を出した。名刺には塚本工務店梶E専務取締役 塚本久子 と、書いてあった。塚本工務店鰍ヘ、この町では中堅の住宅販売会社であった。幸世は「支店長に取り次ぎますので、少々お待ちになって下さい」と、言った。支店長の信雄は、接客室にいた。ドアをノックして、幸世は名刺を信雄に手渡した。接客室から出て来た信雄は「ひー子、入れよ」と、女に手招きをした。女は接客室に入った。30分程で、二人は笑いながら、接客室から出て来た。女は「信ちゃん、今日、待っているから」と、言って、支店を後にした。女を見送って、窓口を通り過ぎようとした信雄に「親しい方ですか?」と、幸世は声を掛けた。「高校時代の同級生だ。今は、うち銀行の大事な御客さんだ」と、信雄は言って、自分の席に戻って行った。幸世は、その日、一端帰宅してから、昌五が気掛かりで、彼のアルバイト先の日本料理店に向かった。幸世は昌五が心配だったが、日本料理店に入る勇気がなく、店の前で、昌五の仕事が終わるのを、車の中で待ち続けた。七時ごろ、店から二人のカップルが出て来るのを見た。支店長の信雄と、塚本工務店の塚本久子だった。二人は、仲睦まじそうに、腕を組んで歩き去った。それは、恋人同士の様な雰囲気だった。幸世は、やはりと思った。九時を回った。昌五が、日本料理店から出て来た。幸世が車を降り「昌五!」と、呼んだ。昌五が、ビックリして、車に近付き助手席に乗った。幸世は運転席に乗っ
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