ありがとう!(T幸世の半生)
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で、車で送って行った。幸世は「今日は、有難う御座います」と、車を降りて頭を下げた。車は走り去った。昌五が、幸世の部屋に入って来て「どうだった」と、聞いたが、幸世は黙り込んで沈んでいた。以後、信雄から度々誘いが有り、その都度、幸世は断り切れず、誘いに乗った。幸世には、断れば、同じ銀行内の父・五郎にも、禍が転じるのでは?との、恐れが有った。二人のデートコースは、地元の町では無く、日帰りが出来る、伊豆とか駿河湾とか神奈川県の観光地に、限られていた。
或る夜、高木家は家族四人で夕食を摂っていた。「御父さん、話が有るのだけど」と幸世が言った。「何だ」と、ぶっきらぼうに五郎が返した。「今、お付き合いしている人がいるの」と、幸世が言った。「姉ちゃん、やめろ!」と、昌五が叫んだ。昌五は、幸世が信雄を嫌っている事を察していた。幸世が「同じ銀行」と、話し始めたら、再度、昌五が「やめろ!俺は反対だ」と、割り込んだ。再度、幸世が話し始めたら、昌五は自分の部屋に戻って、閉じ籠ってしまった。「支店長の、久保信雄さんなの」と、小声で幸世が言った。「今、何て言った!」と、五郎が聞き返した。「支店長の久保さん」と、幸世が答えた。五郎は度肝を抜かれ、妻・昌世の顔を見た。「久保さんは、我が銀行で、出世の筆頭頭だ。学歴も完璧だ。将来の頭取の椅子は、確実だ。実家の久保葡萄園は、県内では有名な資産家だ。幸世、でかした。玉の輿だ。幸世は将来、頭取夫人で、俺は久保さんの義父だ。昌五も有名大学に進学して、同じ銀行に勤めれば、久保さんが居るから、出世は間違いない。鳶が鷹を生んだ気分だ。母さん、祝杯だ。酒持って来い」と、五郎は上機嫌だった。五郎と昌世の気分は、最高潮に達していたが、幸世には笑顔がなく、沈んでいた。もちろん、諏訪湖に行った際、信雄が口にした「高木さんは、銀行では御荷物だ」の言動は、昌五には話していたが、五郎には、話す事が出来なかった。1
或る日、いつもの様に幸世が、窓口で御客に応対していると、30歳位に見える不細工で無骨者の男が入ってきた。体格は大柄で、ガッシリした男だった。支店の入り口には、一匹の子猿が、ロープで繋がれていた。男は窓口で幸世に「新しく通帳を作りたい」と、言った。「新規の通帳ですね。あちらのテーブルに、用紙が有りますので、記入して、こちらの窓口に提出して下さい」と、優しい笑顔で答えた。男はテーブルで用紙に記入し、窓口に提出した。幸世は「印鑑と本人を確認できる物を、お持ちですか?」と、聞いた。男は頷いて、印鑑と運転免許書と現金五万円を、差し出した。五万円は、道の駅での場所代を引いた、始めての売上金だった。幸世は「本人確認できました。有難う御座います」と、言って、男に運転免許書を返し「こちらの入金伝票に、今日の日付とお名前、入金される五万円を書いて貰えますか?」と、言い、入金伝票を
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