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第一章
暴君の来訪
それはいきなりのことでした。夕刻のランニングから帰ってお風呂に入っているとそれまで二人で遊びに出ていた両親の声が聞こえてきました。
「帰って来たな」
単純にそう思いました。しかし両親だけではなかったのです。
「さあ、着いたで」
父のやけに優しい声が聞こえて何かを出す音が。まずはこれで非常に変に思いました。
「何か来たのか?」
それが気になりお風呂から出て服を着るとすぐに母に尋ねました。
「何かあったん?」
「養子もろてん」
母は楽しそうに笑って僕に言いました。今思うと本当に変な言葉です。
「養子!?」
その言葉に変に思い部屋の中を見ますと籠があって何かを出したように紙やビニールがあって。何か家に来たのか、そう思わざるを得なかったのです。
家の中を見回すと台所の隅に。彼がいました。
それは一匹の猫でした。白が多くて黒とダークグレーが背中と顔にある。長い尻尾が黒いのと耳が垂れているのがすぐに目に入ってきました。
その猫が台所の隅の上にあがって隠れているのです。見ればガタガタ震えています。
「猫なん」
「お父さんが買うてきたんや」
母は言います。小さくて部屋の隅で震えている姿、それが僕がこの猫を見た最初でした。
父から聞くと通り掛かったペットショップでしょんぼりとしている姿を見てすぐに買ったそうです。所謂衝動買いですがそれでも売れ残っていて値崩れしていたのでかなり安く買えたとのことでした。十四万八千円だったのが八万八千円だったそうです。その分大きくはなっていました。
生後五ヶ月か半年のこの猫が家に来て。最初はどうなるかと思いました。
「この猫メス?」
「オスやで」
父が答えます。毛並みも顔立ちも整っていましたのでメスかと思いましたがそれは違っていました。しかしかなり男前の猫でありました。
家に来て三日程は。御飯をやっても食べず部屋の隅に隠れて震えているだけでした。そんな姿を見てこれから大丈夫なのかと本気で心配になりました。
「この猫大丈夫?」
「ぺトショップじゃ一番悪かったらしいで」
父は弟の問いに答えます。けれどそれが本当なのかどうかというと。かなり怪しいものです。少なくともこの時点ではそうは見えませんでしたし思えませんでした。そしてこれは当たったのです。
その三日は警戒して殆ど寝ませんし部屋の隅に隠れたままでした。やがて少しずつ出て来るようになり暫くすると御飯を食べて家の中をドドドと走り回るようになりました。
「慣れたかな」
そんな姿を見て素直に思いました。とりあえず家に慣れてくれたかな、と。ところがこの猫はただ慣れるだけの猫ではなかったのです。
母に名前をつけてもらった辺りからでしょうか。その本
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