精神の奥底
58 戻橋
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「そうか…」
彩斗は誰が見ても分かるくらい残念そうな顔をする。
機能も性能も装着感も全て気に入っていた。
しかし同時に感謝の気持ちもあった。
今まで使ってきた時計も学校での暴行のせいでどれも短命だった。
しかしこの時計は今までの中で長く使えたし、買ってから今日までこんなにボロボロになっても、必死に自分に性格な時刻を伝え続けてくれたのだと、不思議と労いの気持ちがこみ上げてきた。
「まぁ、時計に限った話じゃないですが、国産のものはパーツの保有期間が短いですからね。特にクォーツは正確ですが、寿命が来たら、中身を総入れ替えすることになることが多いです」
「ケースとバンドを取り替えて、中のムーブメントも入れ替えたんじゃ、修理じゃなくて、買い直したのと同じじゃないか」
「そうなりますな。しかもこの手の店だと3割引きで売ってますが、修理に関してはメーカー希望小売価格に対する修理額になりますから、新品を買った方が安い場合が多いです」
「この国はモデルチェンジしてばかりで、1つのものを長く使おう、もったいないって言葉を知らない」
「全くですな」
「…さっきまで今度、モデルチェンジする端末欲しがってたくせに」
彩斗と久鉄がこの国を憂いているのに、水を差すようにメリーはぼやいた。
「残念なことに私は立場上、新しい時計の購入をおすすめすることになりますが、もう新しい時計を着けていらっしゃるようで」
「いや、このモデルは気に入ったから、もしまだ在庫があるなら」
「いえ…残念ながらもう生産もしておりません。しかし衛星電波時計になった後継機が発売されています。電波の受信が高速になり、世界中どこでも自動で時刻を修正します」
「衛星電波時計か…」
「おや、新しいもの好きの坊っちゃんが興味を示されないとは?その心は?」
「衛星からの電波を受信するモジュールを積んでるからか、どれもサイズが大き過ぎる」
「坊っちゃんは腕が細いですからなぁ」
彩斗はその細く華奢な手首をくるくると回してみせる。
今までのアテッサもサイズこそ大きい方ではあるが、薄型で手首にフィットするような装着感で違和感は無かった。
久鉄の見せるカタログを見ながら、一度ため息をついてから、口を開いた。
「それに今の話を聞いてると、どうも今の僕には不要な機能が多いみたいだ。世界中を飛び回ることはないし、電波の受信は夜寝てる間にやってくれるから高速でなくても構わない」
「確かに世の8割の人には必要なさそうですなぁ。マーケティングというか、自分たちの技術力を誇示するために作ったようなところもありますし」
「今度発売するっていうスターキャリアーもそんな感じじゃないですか?」
「トランサーでも十分過ぎる性能ですよ?私みたいにあまり使わない人はどちらかといったら、バッ
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