精神の奥底
58 戻橋
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こか新鮮だった。
しかしそんな時、久鉄は話題を変えた。
「そういえば、ニュース見ましたよ。おたくの学校の不良生徒達が港の廃工場で殺されたとか」
「あぁ、らしいね」
「どんな気分です?」
「どんな気分…とは?」
久鉄の話の雰囲気が変わるのと同時に彩斗の雰囲気も変わる。
不良が殺されたニュースについて、彩斗は軽く他人行儀に受け流したものの、久鉄は何か気づいているようだった。
彩斗は一瞬、自分が殺したことに気づかれたのかと焦り、真偽を確かめようと、久鉄の脳にシンクロしかける。
「クラスメイトの方もいらっしゃんたんじゃないですか?」
「あぁ、多分ね」
「この不良たちですよね?坊っちゃんの怪我の原因。そんな相手がいなくなって、どんな気分ですか?」
「…スッキリした。でも残念でもある。いたらいたで殺してやりたいと思っていたし、いなくなったらいなくなって恨む相手がいなくなって、不思議と虚しさを覚えてる」
「フッ、坊っちゃん」
「…何だい?」
「詩人ですなぁ」
「…はぁ」
真剣な顔をして対応した彩斗は自分を責めた。
そして自分を落ち着かせる。
何を焦っているのか、この左遷されたエロジジイに何が分かるというのか、シンクロでも使えない限り自分が犯人だと断言できる者はいない、現場はディーラーが処理して指紋はおろか髪の毛一本自分に繋がる証拠は残っていない、と。
それに自分が犯人だとしても、刑事未成年である自分は一般法は愚か少年法ですら裁くことはできない。
しかし徐々に思考が犯罪者のそれに近づいていることに、恐れが抱き始めていた。
まるで未成年だからと実名で報道されず、社会に復帰できると高をくくった自分の殺した不良たちと全く同じになってしまう気がして、首を横を振った。
一瞬で頭をリセットして、久鉄の作業の方を見た。
久鉄自身も質問自体に大した意味は無かったようで、先程と変わらぬ様子で作業を続けている。
作業はいよいよ裏蓋を外して中を調べる段階に進んでいた。
「ん?うわぁぁ…」
しかし、中の機械を少しいじった後、何かの測定器のようなものを近づけた瞬間、久鉄はの顔色が変わった。
「どうしたんですか?」
「これは酷く帯磁してますな…MRIにでもそのまま突っ込みましたか?」
「検査を受ける時くらい時計は外すよ」
「この時計はある程度の耐磁性能を備えている上、クォーツの時計なら磁気から遠ざけてやれば、大概直るのですが、それでも直らないとは…」
「脱磁したら直るんですか?」
「いえ…磁気だけでなく、中のパーツもところどころ損傷が見られます。ケースやバンドも硬質コーティングがされているのに、かなり傷だらけですし」
「修理はできるのかな?」
「ここまでボロボロだと、メーカーでも直せるかは微妙でしょうな」
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