精神の奥底
58 戻橋
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」
彩斗のことを「坊っちゃん」と呼んだその店員の一連の行動と言動、そして容姿にアイリスは驚きを隠せず、反応が遅れた。
メリーも一応、昔会ったことはあったが、微妙な表情を浮かべている。
まず最初に彩斗に声をかけられる前に読んでいた本は隠微な女性の裸体が描かれた成人向け雑誌、いわゆるエロ本だ。
ニホン最大規模の量販店の店員が業務中に読んでいるという段階で面食らってしまった。
そしてメリーや初対面である自分にかけた言葉も女好きであることが滲み出てきている。
「いやぁ、初々しいですなぁ」
「…っ!」
「そちらのお嬢様は初めましてになるわけですね?ようこそ、ジョーモン電機・電気街本店へ。私は修理コーナーを担当させていただいている久鉄といいます。難しい名前ですが、何かございましたら、お気軽にお声がけください」
そして普段穏やかな性格の彩斗からあからさまに「いい加減にしろ!」と言わんばかりの顔をされて、我に返ったように紳士的な対応に変わった。
その店員は顔のホリが深くハーフのような整った顔立ちで、美男子というか男らしいというか、女性には人気がありそうな顔をしていた。
しかし不思議と年齢が窺い知れず、30代と言われればそんな気もするし、50代と言われても別に驚くこともないような容姿だ。
初対面の人間ならば、自分より年上なのか、年下なのか、どう接したらいいのか分からないこともあるだろう。
しかし少し混じった白髪と少しじじくさいというのか、どこか老いと紳士らしさを感じる言葉遣いから恐らく年齢は中年から壮年に近いだろうと辛うじて判断できた。
「で、今日は?」
「修理を頼みたいんだ。この時計なんだけど」
「おや、うちでご購入いただいた…どんな調子ですか?」
「昨日の夕方から遅れるようになった。深夜に電波を受信して修正したみたいだけど、またズレてる」
彩斗は昨日まで使っていたシチズン・アテッサを渡す。
軽量なチタンのケースにブルーダイヤルのクロノグラフ、世界中の時間に切り替えられるダイレクトフライト機能を備えつつも、実売価格は7万5000ゼニーと手頃なニホンの時計市場の傑作だ。
「そうですか…ではお預かりして、メーカーの方に発送しますので、結果が出るまでに2週間程度いただきます」
「いや、今ここで直せるのか、直せないのか、分からないかな?」
「私にですか?」
「確か時計修理技能士がいるって書いてあったけど、修理カウンターにいるのが1人だけってことは必然的にあなたしかいないんじゃない?」
「えぇ…まぁ、生活の糧に。では少し見せてもらいますよ」
食い下がる彩斗に下手な抵抗をするのも面倒くさかったのか、潔く久鉄は引き受け、奥のテーブルに座って、バネ棒外しを手にする。
「修理カウンターなのに1人だ
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