精神の奥底
58 戻橋
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らも、それなりに裕福な環境で育っていらっしゃる方だ。それに恐らくあらゆる才能に恵まれていらっしゃる。それにあの容姿とその才能を鼻に掛けない真摯な姿勢。それ故にいろんな人々から妬まれやすいのでしょう」
「鼻に掛けないどころか、自分を過小評価してるです。もっと自信を持っていいって思うんですけど……」
「私は彼と出会って、まだそう長くはありません。でも…今の話を聞いていて思ったことがあります」
「アイリスさん?」
「もしかしたら、その才能を一番妬んでいるのは、サイトくん自身なのかもしれない…って」
アイリスは徐々に明らかになっていく彩斗の素顔に胸を締め付けられる思いだった。
彩斗だって妬まれたくて、あらゆる才能を手にしたわけじゃない。
そのような妬まれる才能と常人が持ち得ない能力を持ってしまったことに一番困惑し、辛い生活を送る原因として一番妬んでいるのは、彩斗自身なのだと思うとやりきれない。
昨日の晩の公園の時でのやり取りの時から感じてはいたが、自分やメリーに見せている笑顔も今にも泣きそうな気持ちを必死で押し殺しているのだろう。
今も冷静な仮面をかぶりながら、何か吹っ切れないモヤモヤした嫌な感覚を覚え、本当の意味で自分に笑顔を見せてくれない。
アイリスは何とかしてあげたい気持ちと自分が介入することでますます彩斗をこの迷宮の奥に誘ってしまうのではないかという不安に溺れかけていた。
「でも前より、何というか、大人になった気がしますな。前まで抱えていた何かを吹っ切られたようで、今度はまた別の壁に突き当たったように思えます」
「兄さんはあまり悩みを話してくれないんですよ。いつも1人で抱え込んで…」
「久鉄さんには話たりするんですか?」
「いいえ、全く。何となく探りをいれてみたこともありましたが…まぁ、あんな感じです」
「全部、受け流されたってわけですか?」
「えぇ。こっちが何を言おうとしてるか全て見通されているようでした。それを知った上で、とぼけて返される時もありました。ですが、御二人とあの長身の女の子には心を開いていらっしゃるようだ」
「そう…ですか?」
「はい。今、死んでしまったように感じられる時があったと申し上げましたが...御二人と長身の女の子が一緒の時は間違いなく、生き返っていましたよ。やっと戻ってきてくれた、そう実感しました」
「......生き返った...」
「きっとあなた方との出会いが、坊っちゃんにとっての戻橋だったのでしょう。ですから御二人共、坊っちゃんのことをしっかり支えてあげて下さい」
「…はい」
「分かりました」
「おまたせ、そろそろ行こうか」
その時、彩斗が戻ってきた。
アイリスもメリーも今の話の内容を読み取られるのではないかと一瞬、警戒したが、彩斗も今はシンクロを控えているようで
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