第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第四節 転向 第四話 (通算第79話)
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鈍さを残させた。純粋な操縦の技倆ならばエマの方が上だ。しかし――
「放せっ、ティターンズ!家族が――母さんがあそこにいるんだっ」
メズーンの絶叫がエマの耳朶を打つ。
「か・あ・さ・ん?」
およそ戦場には似つかわしくない言葉だった。だからこそ、エマは怯んだ。生々しい感情の流れ――思惟の迸りを感じた。正面から襲うどす黒く怒りにまみれた熱がぶつかったような気がした。
その一瞬をついたメズーンが、エマ機を突き飛ばした。いや正確には蹴ったといっていい。回し蹴りのように機体を回転させ、膝頭をMSの腹部に突き立てる。予測していなかったエマは、まともに食らって、ミキサーに放り込まれたような衝撃を浴びた。リニア式浮遊シート――衝撃緩衝装置を装備した最新式のコクピットでなければ頸椎を折っていたかもしれない。エアクッションが広がり、一瞬視界を覆う。
その間にメズーン機が身を翻しスラスターの残光を残して離れていった。これはエマの油断だ。メズーンが直接的な行動を起こすとは思っていなかったのだ。片腕がないというのに、危なげないAMBAC機動が行われているのは《ガンダム》のダメージコントロールが優れていることの証明だが、今は厄介だった。
――メズーン中尉っ!
接触通信が解かれ、エマの声は全周天モニターにぶつかって虚しく消えた。届かぬ思い――人と人が理解し合うことの難しさがエマを打ちのめした。互いに状況の一部と割り切ることはできる。だが、他に方法はなかったのかと考えずにはいられなかった。
すぐにスラスターを噴かし、AMBAC機動で姿勢を保つ。メズーン機との距離を離されまいとするが、既にメズーンはカプセルへと向かっていた。この動きをジェリドが察知しないはずはない。
(ジェリド中尉……)
心の中でジェリドが躊躇うことを期待するが、それも虚しい願いだということをエマは知っていた。チャンスを逃したという実感が苦い思いを広げていく。
ジャマイカンからジェリドが受けた『特命』の内容が気掛かりではあったが、今はどうすることもできない。きつく唇を噛んで、追い縋ることしかできなかった。
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