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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十七話 帝国高等弁務官
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無い。
「イゼルローン回廊に運べるものならば、フェザーン回廊に運んでも可笑しくはありますまい」
「……」
要塞一つでこうも翻弄されるのか。ヴァレンシュタイン、これがお前か!
「一部のものが、自治領主閣下の忠誠と信義に疑いを抱いております。それゆえ監視が必要だと……」
「……」
「当然ですが、要塞だけではない、艦隊も付随することになりましょう」
「……閣下は、どうお考えですかな」
「先程も言いましたがフェザーンの忠誠と信義に完全な信頼を寄せております」
「ありがたいことです」
この男が本気で言っているとは思えない。面白くなかったが、それでも俺は礼を言った。頷いていたレムシャイド伯が突然表情を生真面目な老人の顔に変えた。何だ?
「しかし、叛徒どもがイゼルローン要塞を得たことで攻勢を強めるというのであればフェザーンとて安全とは言えますまい。何といってもフェザーンは帝国の自治領なのですから」
「……」
「帝国としては、フェザーンを守る必要がある、そう考えております。その意味では要塞をフェザーン回廊に置くと言うのは良い考えだと思います」
フェザーン回廊を支配される。それは交易国家フェザーンにとって死活問題になるだろう。同盟を帝国領に攻め込ませるのはそれを口実にフェザーン回廊の実質的な支配権確保、フェザーンの属国化が目的か? ヴァレンシュタインの狙いは最初からフェザーンなのか?
「御心配をお掛けしているようですが、フェザーンの独立はフェザーンで守ります」
「ほう、独立、ですか?」
「いえ、安全です」
レムシャイド伯の眼が、声が皮肉な色を湛える。
「安全ですか、そうですか、どうやら聞き間違えたようですな。期待させていただきましょう、フェザーンの忠誠と信義、それと安全を守る気概に」
「……」
「当然ですが、そのどれかが崩れた場合にはそれ相応の覚悟をしていただく事になりますぞ、自治領主閣下」
そういうと、帝国高等弁務官レムシャイド伯爵は可笑しくて堪らぬというように笑い始めた。
俺は屈辱を噛み締めながら思った。いずれこの借りは返す。いつか必ず吠え面かかせてやる。ヴァレンシュタイン、同盟に簡単に勝てると思うなよ。いや同盟に勝ててもこの俺に、フェザーンに勝てると思うな。
最初から勝っている必要は無い、最後に勝てばいいのだ。此処は譲ってやろう。貴様の掌で踊ってやる。そしていつか踏み潰す。しかし先ずは何が起きているか、事実の確認だ。一体誰が俺をこんな頓馬な男に仕立て上げた?
■ 宇宙暦796年 6月22日 フェザーン 帝国高等弁務官事務所 ヨッフェン・フォン・レムシャイド
ルビンスキーめ、大分慌てていたようだな。いい気味だ。何といってもイゼルローン要塞陥落、二個
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