深淵-アビス-part1/安息無き戦士
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みたのよ。思っていた以上の効果で、お客さんたちも大満足だったわ」
ハルナのバックのためとはいえ、舞台に立たされたことにちょっと文句を言ってやりたくなるが、リッシュモンの事件でもこちらは彼女に迷惑をかけてしまったこともあるし、ウェザリーの満足そうな笑みを見ると何も言えなくなる。
「本当に、舞台が好きなんですね」
「当然よ。好きじゃないとやっていけないもの。あなたもそうだから、あの貴族の娘の奉仕を続けているのでしょう?」
「…俺の場合、半ば無理やりですけどね」
「そう?私から見れば結構楽しそうにしているわよ。まるであなたもまた魔法学院の生徒の一人のように見えたわ」
魔法学院の生徒…か、思えばあいつらと過ごす日々は、地球で友達と馬鹿やっていた頃のよう…いや、それ以上な気がする。
「最も、私もこの道以外でしか生きられなかった身だけどね」
伏し目がちに語るウェザリーに、サイトは「どういうことですか?」と尋ねる。そんな彼に、ウェザリーは自分の頭から生えている獣の耳を指差しながら言った。
「人ならざる者の耳が生えているけど、私はこれでもトリステインの貴族の生まれなのよ。家は取り潰されてしまったけどね…理由は、わかるでしょう?」
サイトはなにも言わなかった。なんとなくわかったのだ、この人の親は…おそらくウエストウッド村で出会ったテファと同じなのだ。
「親御さんのどちらかが…だから、ですか?」
「ええ。私の母は獣人だったのよ」
サイトから、空になった舞台を見つめながらウェザリーは語りだした。
「人間に近い姿であるけど、獣と同じ耳や牙…そして獣にも匹敵する身体能力…遥か昔はもっと数が多かったみたいだけど、人間たちの迫害で次第に数が減らされていた。私の母はその生き残りの一人で、それを哀れに思った父が愛人として保護したのが馴れ初めだった。けど私が幼い頃、誰かの告げ口で取り潰された。当然、父と母は殺された。
それからは、生きる術を見失った私は流れ者が行き着く演劇の道に入った。だからこうして生き繋ぐことができたの」
「……」
「サイトーー!もう帰る支度が済んだわ。早くいらっしゃい!」
ウェザリーの話を聞いて黙り込んでいるサイトの耳に、ルイズの声が聞こえる。そろそろ打ち上げの時間なのだろう。
「みんなには、この話は内緒にして頂戴。せっかく舞台を成功させたんだもの。特に貴族にとって、この話は余計に気分が悪くなるでしょうから」
「あれ?ウェザリーさん、打ち上げには来ないんですか?」
「次の舞台のための脚本を書かないといけないの。スカロンさんにも言ってあるから気にしないで頂戴」
「わかりました。でも、気が向いたら来てあげてください。そのほうがみんな喜びますよ」
「えぇ、考えておくわ」
それじゃ、とサイトは一言言い残して、劇場を後にした。
サイト
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