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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十六話 和平への道 (その2)
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俺は胸を叩いた。ヴィオラ大佐は食いつきそうな目で俺の胸を見る。
「卿らが攻め込むなら今のうちだ。遅れればイゼルローン回廊は使えなくなる。要塞をとっても何の役にも立たんな」
「……」
俺が嘲笑を込めて言い放つとヴィオラ大佐はまた悔しげな顔をした。
「ヴィオラ大佐、設計図をハイネセンに送るのだな。そうすればあの小僧がどれだけ本気か分るだろう。また連絡する」
俺は設計図と資料を胸元から取り出すとヴィオラ大佐に渡し席を発った。
■ 宇宙暦796年 6月22日 ハイネセン ホテルシャングリラ ジョアン・レベロ
こんな事になるとは……。今日、自由惑星同盟最高評議会で軍部から提出された出兵案が可決された。政権維持による権力の維持、選挙の敗北による下野を恐れた政治家達の常套手段だ。
出兵案に反対したのは私とホアン、それにトリューニヒトだった。まさかサンフォード自ら軍事的勝利で十五パーセントも支持率が上がるなどと言うとは思わなかった。
ドアがノックされた。
「誰だ?」
「トリューニヒト」
急いでドアを開けるとトリューニヒトが素早く部屋に入ってきた。手にはビニール袋を持っている。買い物でもしてきたのか?
「遅くなった、事実関係の確認に思いのほか時間がかかった」
「それで、何が分かった?」
「その前に食事をさせてくれ、昼を食べていないんだ」
「私だって食べていない」
「そう思って君の分も買ってきた。食べながら話そう」
トリューニヒトはそう言うと、ビニール袋からサンドイッチと缶コーヒーを出した。急に空腹を思い出した。堪らずサンドイッチに手を出す。
「男二人でホテルでサンドイッチか、喜劇かな、それとも悲劇か」
「いずれ笑い話になるときが来るさ」
「笑い話ね。君のポジティブさには恐れ入るよ、トリューニヒト」
食べながら話すと言ったが、食べ始まると無言になった。空腹は最高のソースと言うのは確かだ。サンドイッチも美味いが缶コーヒーもいける。話が再開したのは全てを綺麗に食べ終わった後だった。
「一体、どういうことなんだ、君は知らなかったのか、今回の出兵案を?」
「知っていた」
「知っていたなら何故止めなかった」
思わず声がきつくなった。トリューニヒトは眉を顰め、口を開いた。
「止めたよ、国力回復を優先させるべきだと言ってね」
「……」
「以前君に話したろう。宇宙艦隊司令部が出兵を求めてくると」
「ああ」
「あの後も、何度か出兵を求めてきたんだ。だが反対した」
「……」
「私が動かない、だから彼らはサンフォード議長に話を持っていったんだ」
トリューニヒトの声に苦味がある。
「何故其処まで出兵にこだわるんだ?」
「……今なら勝てる、帝国を倒せると思ってる
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