巻ノ四十四 上田への帰参その十一
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「拙者は政については父上や兄上よりもな」
「劣ると」
「そう言われますか」
「うむ、あまりな」
どうにもと言うのだった。
「よくないな」
「殿はやはりです」
「いくさ人ですか」
「そう言われますか」
「ご自身のことを」
「戦は好きではないが」
泰平を求めている、しかしというのだ。
「だがな」
「政はですか」
「大殿や若殿よりもですか」
「劣る」
「そうだというのですか」
「拙者の精進が足りぬか」
政へのそれがというのだ。
「どうもな」
「では、ですな」
「このことをですか」
「政についても」
「精進されますか」
「これも学ぶことだ」
是非にというのだった。
「向き不向きがあろうともな」
「それは精進によって克する」
「そうするものですな」
「だからこそ」
「殿は」
「そうする、やはりそうせねばな」
どうしてもというのだった。
「ならん、政の方も精進しよう」
「ですか、流石殿ですな」
「至らぬとなれば精進」
「そうされるのですな」
「人は誰でも最初は出来ぬ」
何事もというのだ。
「歩くこともだな」
「はい、生まれたばかりですと」
「立って歩くことも出来ませぬ」
「しかしそれをです」
「立って歩く様になりますな」
「だからじゃ、拙者も政が至らねばな」
向いておらずとも、というのだ。
「学びそしてな」
「そちらも備える」
「そうされますな」
「そうじゃ、そうする」
是非にと言うのだった。
「わかったな」
「はい、それでは」
「それではですな」
「殿はそちらに励まれ」
「そのうえで」
「民の為に働こう」
上田においてもというのだ。
「是非な」
「では」
「その様に」
「うむ、ではな」
こう言ってだ、幸村は上田に戻ってからのことも既に考えていた。武士として政のことも考えそのうえでだった。
巻ノ四十四 完
2016・2・7
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