巻ノ四十四 上田への帰参その十
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「しかし」
「はい、あの方が」
「羽柴家で固まれば」
「その時にですな」
「天下は定まればいいのですが」
「それが出来なければ」
「危ういですな」
即ちだ、折角泰平になろうともというのだ。
「その泰平が」
「また乱れますな」
「その後でまたすぐに固まればいいですが」
「それが不十分ならば」
「また戦ですな」
「そうなりますな」
「戦の世はです」
馬に乗りつつだ、幸村は。
隣にいる兼続に対してだ、瞑目してそのうえでだった。こうしたことを言ったのだった。
「最早です」
「いりませぬな」
「全く以て」
「武勲もいりませぬか」
「それもです」
「求めておられませぬか」
「はい、それがしは」
これもまた幸村の考えだった。
「戦は恐れませぬが」
「それを好むことはですな」
「しませぬ」
戦がないに越したことはないというのだ。
「全く以て」
「泰平が最もよいですな」
「民達が平和で穏やかに暮らしていれば」
「それで、ですな」
「よいと思っています」
戦がなくとも、というのだ。
「別に」
「それでは」
「はい、戦がなくとも我等は生きていけます」
「武士としての道もですな」
「歩めます、ですから」
「戦は求められませぬな」
「あれば恐れず戦うのみです」
しかしというのだ。
「それだけです」
「ですか、では」
「戦を望まずです」
そして、というのだった。
「泰平を望みます」
「では」
「はい、その様にです」
こう兼続に言ってだった、幸村は彼と十勇士達と共に越後と信濃の境に向かっていた。そしてその時にもだった。
夜に十勇士達と鍋を囲み話をした、ここでは兼続はおらず彼等だけがいた。今彼等が食べているのは山鳥達と茸、山菜の鍋だ。
その鍋を食しつつだ、十勇士達に言うのだった。
「越後では充実していて上洛はよかったが」
「やはりですな」
「上田はですな」
「やはり懐かしいですな」
「我等の国は」
「うむ、懐かしい」
幸村自身も言う、その鍋を口にしつつ。
「実にな」
「そして故郷に帰りましたら」
「その時はですな」
「民達の為に政に勤しむ」
「そのうえで鍛錬と学問ですな」
「その二つにも励む、しかし」
ここでだ、こうも言った幸村だった。
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