第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第四節 転向 第三話 (通算第78話)
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
咄嗟に誰も何もできなかった。
慣れていない、初任幹部だらけの処女航行である。しかも半分は軍属とはいえ民間人あがりであり、緊急事態に反応できようはずもなかった。
「なんで灯が入れっぱなしなんだっ」
ランバンがメカマンに言い放つ。
解体中の《ガンダム》の熱核融合炉が運転中であったのは、確かにメカマンの責任だ。しかし、メカマンにも言い分はある。作業途中で臨戦態勢に入らざるを得ないほど急な命令だったのだ。そして、解体を始めさせておいて、第一種戦闘配備を出す方が不手際だとメカマンらは思っていた。
一方、メズーンはイグニッションを確認すると、左腕一本の《ガンダム》にガントリーレーンを押し開かせて、クリアランスを確保した。ハンガーから機体を出し、デッキからカタパルトへと続くハッチをくぐらせる。
カタパルトのロックは解除されていない。MS側から射出シークエンスを作動させることはできなかった。マニュアルでMSカタパルトから離艦するしかない。メズーンは垂直跳びの要領で《ガンダム》を離艦させるために、《ガンダム》をしゃがませ甲板を蹴らせた。
ふわりと勢いなく《ガンダム》が宙に浮きあがる。浮きあがるというのは人間の感覚であり、MSがAMBACを利用して艦とは別方向のベクトルに向かっただけのことに過ぎない。別の質量に接触するか推力を加えない限り真空の宇宙では速度とベクトルが保持されるからだ。
艦から離れたことを確認して、フットペダルを踏み込んだ。メインスラスターが全開になり、バックパックの四つのスラスターノズルが輝いて、燃焼した推進剤が吐き出される。
――メズーン・メックス中尉、G03応答してくださいっ
トーレスがひっきりなしにオープン回線で呼び掛けている。ミノフスキー粒子が薄く、音声はかなり明瞭だった。
コールする無線を無視して意識を前方に向けた。スイッチをオフにしたい衝動に駆られたが、撃墜される危険を鑑みて堪える。《アーガマ》のデータバンクに《ガンダム》の登録は済んでいるし、喉から手が出るほど欲しがっている機密がある機体を、敵機として撃墜することもないだろうという思惑もあった。
どちらにしても、メズーンにしてみれば、それどころではなかった。
(何故だ?)
ティターンズの対応があまりにも早過ぎることが、頭から離れないのだ。家族が心配で堪らなかった。ほかのことなど構っていられない。
メズーンの出奔から僅か半日。この対応はあらかじめ手配していたとしか思えぬ素早さである。それはすなわち、レドの計画が洩れていた可能性を秘めている。いや、それならば何故自分は《アーガマ》にたどり着けたのか――そこも不自然だ。
交錯する様々な思い。
答えが見つかるはずもない。
果たして、今の自分の行動が正しいのか。軍人としてあるまじき行為ではな
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ