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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 18
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微かな隙間から覗く光も、夜にしては明るく見える。多分、昼前後だ。
 「よし。……っと。食べ物はきっちり避難準備しとかないとね」
 野菜と干し肉を扉の脇に移動させ、包丁は元の場所に戻しておく。
 床に置きっ放しのランプを手に取り、鉄細工で覆われた円柱型ガラスの内側を確かめる。
 火を灯す油にはまだまだ余裕があった。これならよく燃えてくれるに違いない。
 「私はハウィス達を信じるよ、神父様。だからもう……何も怖くなんか、ない!」
 扉とベッドから離れた位置で、ランプを思いっきり床へ叩き付ける。
 盛大な破壊音を伴って欠片を撒き散らしたそれは、直後にボワッと燃え上がった。
 赤い炎が床に拡がった油を伝って、少しずつ大きさを増していく。
 「誰の所有物か知らないけど、ごめんなさい」
 実行した後でこの場に居ない誰かに謝っても仕方ないのだが、目の前で壁が赤白い光に呑まれていく様を見ていれば、少しばかり申し訳ない気持ちにもなる。
 損害賠償を請求されたらどうしよう、借金はしたくないな、分割での支払いは有効かな……とか考えてしまう程度には。
 「早めに来てくれると嬉しいんだけどなぁ。また気を失ったら、家一軒の犠牲が無駄になっちゃう」
 ベッド横の床に膝を抱えて座り込み、引き寄せたシーツの端で口元を庇う。
 (あ。しまった。先にこれを濡らしておけば良かったか)
 炎が天井まで昇り、煙が室内に充満してきた頃……ちょっとだけ自分の迂闊さを後悔したが、ドカンと派手に開いた扉でそれは解消された。
 「うわ!? なんだこれ……っ」
 煙を払いながら露骨に慌てた表情で近寄って来たのは、三十代前半くらいの見知らぬ男性。
 着古した白いシャツに濃茶色のくたびれたズボンと傷んだ黒い革靴を穿き、何処にでも居そうな普通の村人を装っている。
 しかし、此処に現れた時点で只人じゃない事は明白。今更そんな変装など無意味だ。
 「なんて無茶をするんだ、君は!」
 彼は煙る部屋を一瞥しただけで状況を理解したらしい。一瞬躊躇った後ミートリッテを強引に立たせ、シーツを丸ごと押し付けると……ベッドの側面真ん中辺りを下から抉るように蹴り上げた。
 「……は?」
 床にくっ付いてると思っていたベッドはあっさり横向きに倒れ、頭部側の足二本から鎖が引き抜かれる。
 (な……何事? へ? どゆこと?)
 「ボケーッとしてないで! 早く外へ!」
 炎の所為で熱くなっている鎖を腕に巻き付けた青年は、驚愕の光景に目を白黒させるミートリッテの肩を押して、無理矢理扉の外へ追い立てた。
 「……あ、野菜! 食べ物! 勿体無い!」
 「そう思うなら火付けなんかしないでくれよ、頼むから! 現場の責任とか言って怒られるのは俺達なんだぞ! あぁもう本当、あの方が絡むと碌な目に遭わないな
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