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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 18
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。扉まで届かないのは簡単に想像できたが、それでも思ったよりはずっと長い。
 (外には絶対出ないで。この内でなら自由にしてて良いから……か)
 訳も分からず眠らされて監禁されて拘束されて。
 こんな状況なのに、不思議な思い遣りを感じて苦笑してしまう。
 「……うん。良いよ。ハウィスは私を自由にして良い。何をしたって赦されるし、ハウィスが決めた事なら、例え即刻家を出て行けと言われても従う。二度と顔を見せるなって言うならそうする。人買いに売り払ったって構わない。貴女にはその権利があるから」
 いつもより重い腕を持ち上げて、甲で涙を拭い去る。
 すると、冷たかった心臓がとくんとくんと熱を持って脈動を始めた。ハウィスに嫌われたかも知れないと思って凍り付いた心が、長い鎖と自分の現状に込められた希望を見付けて息を吹き返したのだ。
 我ながら調子が好い奴だと、心底呆れる。
 「……でもね、駄目なの。違う時なら大人しく従ってたよ。けど今は、幾らハウィスのお願いでも命令でも聞けない。私に貴女を護らせて。ねぇ……ハウィスお母さん」
 『依頼』の期限が切れているとは思いたくないが、シャムロックが村を離れた所為で海賊達がどんな行動に出るか。早く村の様子を確認しなければならない。その為に、まずは此処を脱出する。
 どうせ鍵は持ち出しているだろうから、手枷は外せないものとして放置。どうにかするなら鎖のほうだ。両の手首に連なる多くの輪の内、二つを壊せれば拘束は解ける。
 何か道具は無いかとベッドから降りて室内を細かく探索してみたが、使えそうな金物といえば包丁が一本だけ。
 「……手をぶった切るのは……有りっちゃ有りだけど、仕事に就けなくなるのは困るなぁ。傷口を焼けば血も止まるとは聞いたけど、片方無くした時点でもう片方どうするかって話になるし。うん。現実的じゃない。却下。」
 試しにパイプベッドを持ち上げようとしたが、材質の割りに滅茶苦茶重い。重いというより床にくっ付いてる感じだ。微動だにしないこれを一人で動かすのは不可能だと、早々に諦める。
 「鎖と手枷。ランプに包丁。ついでに干し肉が少しと葉物野菜が小箱一つ分。解放までは二、三日を想定ってトコかな……」
 ベッドに腰掛け、改めて自分の格好を見る。
 前回同様、意識を失う前と変わらない服装。
 ただ、靴は履いてない。代わりになる物も室内には無かったから、これも脱走防止策なのだろう。
 「念入りすぎるよ、ハウィス。これじゃ絶対に居るって教えてくれてるも同然じゃない」
 もう一度立ち上がり、今度は鎖が届く限界まで扉に近寄る。あと一歩の所でピンと張った腕と鎖を無視して、扉の外に意識を集中させた。
 聞こえるのは波の音。それから、木の葉が風に揺られて擦れる音。鳥の声もする。虫も……気配はするけど大きくはない。
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