第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第四節 転向 第二話 (通算第77話)
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「遅いな……カミーユの奴」
ガンルームに様子を見に行っただけのカミーユがいつまで経っても戻らないことに、ランバンは少しだけ苛ついていた。
「俺が見てこようか?」
メズーンが腰を浮かそうとするが、ため息を一つ吐いて座り直した。肩を竦めてみせ、おどけたような素振りをする。
「と、いう訳にもいかないから…な」
メズーンはカミーユが所属していた空手部の主将で、硬派な外見から堅物に見られ勝ちだが、ムードメーカーであり、人望もあった。ランバンにしてみれば、嘗ての尊敬すべき人間が、投降者として目の前にいることが不思議だった。
当のメズーンは自分の措かれた状況を正解に把握し、受け入れていた。おどけてみせたのはランバンの苛立ちを和らげようという優しさだった。投降したといっても、メズーンは《アーガマ》の正式なクルーになった訳ではない。まだ見習いといったところだ。自由に動くには艦長の許可が必要だった。カミーユたちによって身許は証明されたが、スパイではないと証明された訳ではない。
「自分と一緒なら」
ランバンはスクッと立ち上がり、メズーンを促した。することもなく、ただ待つだけに正直なところ退屈していたのだ。それに敵が迫っている現状が、どうなっているのかも知りたかった。カミーユがガンルームの様子を見に行くのを承諾したのだって、隔離されたかの様にブリーフィングルームに残された不安からだ。
ランバンは巨体といってもいいほど縦にも横にも大きい。厳めしい顔立ちであったが、愛嬌のある笑顔で笑うため、いつも周りに人がいた。そのランバンがニッコリと笑った。メズーンを安心させたいという気持ちもあっただろうが、信頼と信用の証でもある。
ランバンはメズーンの監視役であり、彼を一人にすることは出来ないが、一緒に行動すれば、監視の任を放棄したことにはならないと考えた。勝手な解釈だが、部屋を出てはいけないとは言われていない――と自分に言い訳をする。
二人はメインシャフトのセントラルエレベータから、重力ブロックを抜けて、艦底のMSハンガーへ向かう。MSハンガーへの直通のエレベータはないため、重力ブロックを通らなければならない。サラブレッド級は艦体の割りに必要人員が少ない上に《アーガマ》は定員割れの状態であり、最低乗組員数ギリギリしか居ないため、臨戦警戒中の現在、重力ブロックで誰かに見咎められる心配はない。
MSハンガーとMSデッキのエアロックは開放されているはずだ。二人は手近のロッカールームでノーマルスーツに着替え、ハンガー脇のガンルームに入ろうとした。
「おい、聞いたか?ティターンズが人質を取ってるってよ!」
誰が背後から声を掛けてきた。慌てている…というよりも落ち着かない風だった。
「人質だぁ〜?」
怪訝な顔でランバンが返す。何かの間違いか冗談としか思え
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ