第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第四節 転向 第一話 (通算第76話)
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待機中のデッキクルーたちは、甲板脇に屯していた。ガンルームの人影は疎らであったが、数人がひそひそと噂話をしている。
「おい!聞いたか?ティターンズの奴ら、《ガンダム》を返さないと人質を殺すとか言ってきたらしいぜ」
「マジかよ…」
「あぁ、あの中尉の両親が人質だってんだろ?」
「さすがはアースノイドのクソ野郎どもだせ。やることがエゲツない」
彼らを口さがない連中と蔑むのは容易い。だが、この緊迫の中、ティターンズの動向は注目を集めて当然であった。
第一、軍が民間人を人質に取るということは、有史以来無いわけではない。しかし、中世紀以前ならともかく、現近代においける一国の軍隊として信じがたい行為だ。少なくとも、連邦軍創設以来なかったことである。テロリストならともかく、惑星国家たる地球連邦政府の平和を守るという建前を持つ軍隊のやることではない。人質などというものは、政府要人であっても非難される行為であるというのに、それが軍属とはいえ民間人であることは大問題だった。過激派の突出では済まないレベルの話である。主義者ではないレコアでさえ嫌悪することだった。
「無駄口叩かないでっ。今は、第一種戦闘配備中でしょ!」
手を叩いて拍子をとりながら言うレコアの声に、デッキクルーたちが首を竦めて部屋を出てく。彼らとて悪気があってのことではない。話していなければ、不安で居たたまれないだけのことであり、偶々その話をしていただけなのだ。
レコアにも、彼らの心境は解らないではない。レコア自身、喉がひりついて、ドリンクチューブを取りに来たぐらいである。逸る気持ちと落ち着かない不安感、敵が近いという緊迫感が、皆をいつもより饒舌にしているのだ。
「カミーユやランバン……それにメズーン中尉の耳に入ったら困ったことになるでしょ?」
メズーンらは今、別室にて待機している。搭乗する機体のこともあり、ブリーフィングルームでミーティングすることになっているはずだ。不幸中の幸いとも言えるが、箝口令が敷かれていないのが気になる。クワトロに進言するべきかどうか迷うところだ。箝口令を敷いた所でエゥーゴ――いや、《アーガマ》では効果があるとは思えないからだ。半分が民間人――厳密には現地徴用兵と民間からの出向組だが――なのだ。普通の軍隊並みに規律を保つのは不可能だ。
それに、理由は解らないが、拭いきれない嫌悪感がまとわりついて離れないのが気に掛かっていた。ティターンズには、もう一つ裏に何かしらの企みがあるような気がするのだ。べとついた汗が肌にシャツを貼りつかせたような不快感が残る。
「全く厄介なことになったわ……」
その呟きの向こうに、レコアの予想を遥かに超える厄介さが迫っていた。視線を正面に戻したとき、レコアは此処にいるはずのない人物を見た。
「……カ、カミーユっ!?」
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