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バーチスティラントの人間達
トレイターさんの本
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も外の状況を把握したいのですが。』
そんな勤勉なティレイアの声は無視して。
「確かに俺はここにいる。で、用件とは。」
そうトレイターさんがリコリスに問いかけると、びしっと片手の本を指さして元気に言った。
「その本返せ、だって!」
「……断る。この本は俺のだ。」
呆れたようにそう返すと、リコリスはポケットから紙切れを引っ張り出した。それを熟読し始めたあたり、きっと"質問リスト"なのだろう。エフィさんから罵倒されるだけの知能だ。
「えーっと、じゃあ、『なぜ?』?」
「だから俺のだと……。それに、返せるものじゃない。この本は……。」
トレイターさんが何か言いたげにするが、俯いて言葉を切った。リコリスが続きを催促しても、首を振るだけだ。
「この本はトレイターにとってものすごーーく大事な本なのです。大事なものを返せと言われる筋合いはないのです。この答えで満足なのです?」
そうエフィさんが強い口調で言うと、リコリスは数歩下がった。

「わ、分かった分かった!……だってさ、司書さんっ!!」

そう叫ぶと、彼女は上空に雷撃を放った。それが合図だったかのように、突如そばに人影が現れる。

「ご苦労。あとは私がやるわ。」

数か月前に聞いた声。数か月前に見た姿。
「"司書"……!?」
思わず僕がそう漏らすと、ふっと彼女は視線をこちらに向けた。
「……ああ、確かあなたには会ったことがあったわね。随分と昇格したじゃない。」
くすっと笑うと、"司書"はトレイターさんに近づいていった。アルマとラーマは突然のことに、硬直してしまっている。
「ねえその本……並の人間が扱えるものではないのだけれど。」
そう彼女が言うと、僅かな緊張を含んだ表情のトレイターさんが口を開いた。
「あなたが何と言おうと、俺はあなたの配下に就く気も意志を変えるつもりもない。俺はあくまで、あなたの"幻書"をただ狙い続ける。……場合によっては、すべての書物の知識を持つあなたをも。」
「そう、残念ね。……あなたからその本を引き離すことは無理だと知った上で今日は来たのだけれど。」
ふぅ、と彼女が短いため息をつく。そして、
「ま、それが本題ではなく。ちょっとお願いがあってきたの。」
と言った。この言葉に、トレイターさんが両手で本を抱えた。
「ドリーマーから聞いたのだけれど。……あなた、私の記憶の一部をその幻書の力で奪ったことがあるそうね?」
トレイターさんとエフィさんが、目を見開き硬直した。これは僕や双子も、初めて聞いた話だった。
「それを返してほしいのよ。元は私のものなんだし。それに、どうやらその記憶が大切なものらしいのよね。」
僕はトレイターさんの方を見た。明らかに緊張と恐怖、そして、悲壮を感じさせる表情だった。
「…………断る。その記憶は、あなたが持っ
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