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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
番外編1 彼女の笑顔
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恥ずかしくなった。あまりに見当違いな方向へ突き進んでいたことに。自分だけ楽しい気分に浸っていたことに。
「……ご、ごめん。今のは忘れ――――」
「あなたがここへ来るからよ」
「へ?」
 ネージュの声に上から被せる形で発せられたキカの言葉に、顔ごと逸らしていた視線を戻す。けれどキカは広く紅い空を見上げていて、表情は分からない。
 耳がかすかに赤く染め上げられているように見えてしまっているのは、さすがに良い方向へ考え過ぎだろうか。
「そ、それって……」
「私がわざわざ時間を割いて、こんな所でのんびりするとでも思っているの? 時間の無駄だわ」
「……ッ」
 口調や言葉選びはキツいのに、その内容は。
 改めてキカの横顔をまじまじと見つめてしまうけれど、気遣っているような雰囲気は無い。その代わりに、すごく不機嫌そうだ。
 ネージュは震える唇を何とか動かし、さらに言葉を紡ぐ。
「き、キカちゃん、もういっこ聞いてもいい……?」
「何よ」
「その理由って、夕日を見るため? ……それとも」
 キカがこちらに顔を向けてくる。その眉は、ぎゅっと吊り上げられていた。いつもの、あの美しい笑顔は無い。
「愚問ね。私、一言もそんなこと言っていないじゃない」
「でも」
「ああもう、面倒くさいわね。……私、景色を眺めながら休むことなんてほとんどしないわよ」
 ツンと尖った口調で言い放つと、スカートの裾を直しながら立ち上がってしまう。ネージュも慌てて腰を上げ、村へ向かって歩き出した小さな背中を追った。今日はもう帰ってしまうのだろうか。
 ここで有耶無耶にしたくない。ちゃんと聞きたい。知りたい。
 強い気持ちに突き動かされ、ネージュは腹の底から声を出した。
「待って、待ってよ! キカちゃ……ッ」
「――――私は、自分のしたいことをするの」
 振り返ったキカの顔には、いつになくイライラとしたような色が浮かべられていた。足を止めた彼女に合わせてネージュもその場に立ち止まり、正面から見据える。
「必ずそうしなければいけないようなものだったらまだしも、行く、行かないの、そんな下らない問題でわざわざ自分の意思を曲げないわ」
 そうして、コテンと首を傾げ、
「……悪い?」
 問いかけてきたキカの声音は、どこか楽しげだった。
「う、ううん! 全然!」
「そう」
 ああ、でも。
 笑ってくれたなら、もっと嬉しかったのに。



*   *   *



 好きだった。心の底から愛していた。
 その細い身体を抱き寄せて、あたためてあげたかった。ずっと一緒にいたかった。
 キカの心の拠り所になりたいと、本気で思っていた。
「…………ごめんね。約束、守れそうにないや」
 死なないって言ったのに。
 ずっと、守っていたかったのに。
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