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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第10話 黒染めの化け物(後編)
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へと集中している。だから、問題はベータテスターたちをエギルが庇ったことではない。
あの時、私もエギルの隣に座っていたのだ。エギルと、ルークたちと言葉を交わしていたのだ。もし、それも、この男が覚えていたら。
嫌な汗が吹き出す。まずい、まずい。
彼らには、余計な傷を負わせたくなかったのに。汚名を着せたくなかったのに。
「や、やめ……」
「キカ」
耳元で、自身の名が呼ばれた。ずいぶん声量が抑えられていたが、もし周りに聞こえてしまったらどうするのだ。
私の身体を支える腕の持ち主を、じとりと睨みつける。
「…………」
誰かの耳に私の声が届いてしまうのが恐ろしくて、「ルーク」と、心配そうに眉を顰める彼の名前を呼べない。それは彼も分かっているようで、ルークは一つ頷き返してくるだけだった。
「大丈夫か?」
とても優しい声音だった。思わず溢れ出そうになるものをグッと堪えて、私も首を小さく縦に振る。
そのまま、ルークの腕に促されるままに壁へ背を付けた。思い切り体重を預けてしまえば、ずいぶん楽になる。
「…………そんな女助けて、どういうつもりなんだ」
氷の槍のように鋭く冷たい声が、頭上から降ってきた。怒りを隠そうともしていないそれに、肩が大きく跳ね上がる。
いけない。これは駄目だ。
どうしよう。どうすれば良い。どうすれば、エギルたちを守れる?
グルグルと回るのは、そんなとりとめない言葉ばかり。情けないことに、全く妙案が思いつかない。その間にも、エギルの言葉は続いてしまう。
「助けるとかじゃない。ただ、暴力を振るわれているのを黙って見ているわけにはいかなかっただけだ」
どうして、私を切り捨ててくれないの。見て見ぬふりをしてほしかったのに。何ならその男と一緒に、私に手を上げてくれても良かったのに……。
「コイツが、何を思って矢を放ったのかは知らない。それに、お前らがあの指揮官とどれくらい親しかったのかも知らない。だが」
「ふん。ベータテスターの味方をするくらいだから相当な物好きだとは思っていたが、こんな奴まで守ろうとするなんて……」
「俺は、そんなことを言っているんじゃない!!」
ガツンと、鈍器で殴られたような感覚。よく通る太い声が、空間をビリビリと震わせた。
怒っている。あの、温和なエギルが。
未確認動物を発見してしまったような心持ちで、まじまじと彼の横顔を見詰める。私の隣で片膝を付けているルークの方を見遣れば、口をポカンと開けていた。
「一つ、いいか」
「な、なんだ」
「アイツに対して、お前は“何とも思っていないのか”と言っていたが」
エギルが一歩前へ踏み込む。それに合わせて、男が後ろへ下がった。
「…………人を殴って、首を絞めて、地面に叩きつけて。しかも頭を蹴ろうとまでして……、―――
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