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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第10話 黒染めの化け物(後編)
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痛いほどの冷気が包む。私はルークのうしろに身を隠しながら、何も出来ずに、ただ存在を無くそうとしていた。
目の前には、一人の黒い少年。先ほどのボスからドロップしたのであろうコートを纏っている。……刺すような視線は、すべて“彼”へ向いていた。
事の始まりは、ボスがその姿を光の欠片に変えてすぐのことだ。 歓喜の雰囲気でそのまま終わってしまえばよかっただろうに、いや、どう足掻いてもそういう結末にはならなかっただろう。一人の命が掻き消えたという事実はあまりにむごく、精神を切り刻む。
それが、今回のリーダーであったのならば、なおさら。
誰が最初だったかは、いまいち記憶にない。おそらく、ディアベルのパーティメンバーだったと思う。その人が、ぶつけたのだ。
ディアベルの死に対する怒りや、悲しみや、やるせなさを、元ベータテスターに矛先を向けて。
むろん、ベータテスターのせいだ、なんてとんだ言いがかりだ。もっとその脳みそをフル回転させて、状況を論理的に整理しろと彼らに浴びせたくなる。
しかし、頭に血が上っている状況では、焼け石に水だ。最悪、ベータテスターへのわだかまりに火薬を足し、誘爆する結果に終わる。
……おそらく、“彼”も解っているのだろう。哀しい事に、悟ってしまったのだ。その聡明な頭は、結論を弾き出してしまったのだ。
このままでは、ベータテスター全員に牙がむかれる、と。十中八九、ボスの攻撃を読んでいた“彼”も、そうなのだろうから。
だから、“彼”はそれを選択した。
あまりに身勝手なそれらを、すべて受け入れて。
「そうだ。俺は、≪ビーター≫だ」
冷笑を湛えながら、あくまで冷酷に、無慈悲に。……しかしそれでいて、悲しげに、苦しそうに言い放った。
――――なんていう、ことを。
体温が一気に上がった気がした。何かを詰め込んだ風船が膨れ上がっていき、針へ迫っていく。
「……馬鹿じゃないの……」
そんなことをすれば、非難の視線や声を一身に受けることは必至で、もしかしたら物理的な危害を加えられるかもしれないのに。
……たとえそれが目的だとしても、“彼”はなんて馬鹿なのだろう。本当に、どうしようもない。
だが、そんな馬鹿な人が起こした行動の裏に隠されたものに気づかないで、安易に悪意を向ける者たちは、彼よりも馬鹿だ。大馬鹿どもだ。
歯軋りをしながら俯けていた視線を上げれば、ちょうど黒い少年が螺旋階段の一番下の段に足を掛けていた。それを見止め、また視線を落とす。
私は元ベータテスターではないし、きっと今の場面で何も出来なかった。出ていけば一発で“彼”にバレてしまうのだから、それを理解している私は、私利を優先して一歩も動けなかっただろうけれど。
それに、ああする以外の方法は私も思いついてはいなかった。
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