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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第7話 六花が贈るメッセージ(中編)
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た彼に、思わず身を乗り出す。そういえば、ネージュの交友関係など知らない。もともと興味が無かったのだから仕方がないが、彼からこういう話を聞くのは珍しいな、と思ってしまった。……少し、ほんの少しだけ、悔しさのような、薄ら暗い、ザラザラとした砂のような感情が胸を掠める。
 そのせいだろうか。それとも、この妙な空間のせいだろうか。普段なら決して口には出さない類の、“意地悪さ”が飛び出してしまったのは。
「へえ、それは大変だわ。早く帰らないとね。……ねえ、――――“雪”ん子さん?」

 びくん、と彼の肩が大きく跳ねた。目を丸くし、今まで見たことのないほど驚愕の色を滲ませた表情をしている。
 それだけで、私は彼の返事が無くともソレを確信した。けれども、私は言葉を発せず、彼が次どう出るか待つことにする。……思っていたよりも早く、それは終わったが。
「……この名前――――“ネージュ”の意味、分かったのはキカが初めてだよ」
「ふふ、そうなの。嬉しいわ」
 にっこりと笑顔を作って言えば、彼は「あはは」と乾いた笑い声を上げながら、眉を八の字にして頬を掻いた。
 そのネージュの困ったような表情に、言い出したのは自分のくせに早くも罪悪感が湧いてくる。やはり、私には意地悪というものは向いていない。
 すう、と大きく息を吸って、体の中に澄んだ空気をめいっぱい取り入れた。
 お詫びに何かしなければ。どうしようか、暴いてしまったのなら、私も己の一部を晒そうか。
 ぐ、と唇を噛み締める。これから私が口にするものは、そして話の流れによって私たち2人の間で交わされるかもしれない会話の内容は、この世界では“タブー”とされているものだ。
「…………これは、私の“独り言”よ」
「……あ、ああ、うん」
 「独り言ね」、彼がほとんど音にならないような声でつぶやいた。私はそれを妖精の囁きとして脳内で処理をして、“独り言”を続ける。
「……数年前のことなのだけど、私、留学したかったのよ。それで、フランス語の勉強をしていたの」
 だからその名前に意味が分かったのだけれど、と心の中で付け足す。
「……留学?」
 すると、葉を擦り合わせて妖精が聞いてきたので、くすりと小さく笑みを作った。
「えぇ、バレエ留学よ。……まあでも、ちょっとしたゴタゴタがあって全部無くなっちゃったのだけれど」
 私の横にいる森の妖精が息を詰まらせる気配がした。けれどすぐに、まるで頬を撫でるようにあたたかい風が吹く。
「ふふ、くすぐったいわ」
 脳裏に思い浮かぶのは、ひとつの強い気持ちでバレエを踊り続けていた自分の姿。あの頃の私は、ただひたすらに、真っ直ぐに、純粋に、黒い影に押しつぶされそうになりながらも、必死に己の足で歩いていた。輝こうとしていた。

「私ね、“雪”って好きよ。真っ白で、小さく
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