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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第5話 君の瞳、僕の瞳(後編)
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屋を見つけられそうなんですって」
「そ、そうなんだ」
 ピクリと、ネージュの肩が小さく跳ねる。あまり見ないその様子に、今度こそあからさまに苦い顔をしてしまった。……この話題は失敗だっただろうか。コミュニケーション能力が欲しいと、これほど思ったことはない。
「……キカちゃんは、参加するの?」
「え、ええ。そのつもりよ。……あなたは?」
「僕は……」
 言いづらそうに口ごもり、顔を伏せる。言い切るのを躊躇っているかの様子だった。私は瞬時にそれを察すると、彼の肩に頭を乗せ、なるべく明るい声音になるよう気を付けながら音を発した。
「出来ないならそれでいいんじゃないかしら。誰かに無理強いされるようなことでもないわ」
「で、でも」
「それに、中途半端な覚悟で来られる方が迷惑よ」
 ネージュの言葉をさえぎり、厳しい毒をぶつける。彼の顔がぐしゃりと歪み、噛み締められた唇が震えていた。
 言い過ぎだ。……分かっている、そんな事は。
 困惑に揺れるネージュをギロリと睨み返した。ぐつぐつと鍋を煮込んでいるかのように、身体の中が熱い。喉の奥が辛い。腹の底から湧き上がるその感情を、隠すことなく彼へ向けて放出した。
 ピリピリと肌を薄く裂く空気に、先に耐えくれなくなったのはネージュだった。吐息まじりに自嘲の笑みを滲ませると、
「……本当、情けないなぁ。それこそ、カッコイイ所を見せるならボス戦で――――」
「やめてちょうだい!」
 何を言い出すのか。鋭い声を上げ制止をかける。驚愕したような真ん丸のスカイブルーの目が向けられた。困惑の色を深め、ウロウロと視線を揺れ動かしている。
 私はその様子に眉をぎゅっと寄せると、深呼吸をして激しく暴れまわる炎を消火しにかかった。
「……き、キカちゃん?」
「……やめて」
「何を、言って……」
「そんな事をされるくらいなら、私はネージュの強さを知らないままで良いわ」
「でも、僕はそれじゃあ!」
「駄目よ。反論はさせない。……許さない」
 強さとは、何も“ステータス”だけでは無いのだ。彼はすでに、十分示してくれているではないか。
 その、清らかで優しい心で。
「ネージュ、聞いて」
「……うん」
 背けていた顔を正面へと戻し、瞬きをする光をぼんやりと見上げた。ざあざあと、木の葉が鳴く。
「アンタはね、ヘラヘラ笑っている方が、ずっとずっと似合っているんだから」
 ネージュは何も返してこなかった。驚いているのだろうか、怒っているのだろうか、それとも別の感情を抱いているのだろうか。分からない。分かるわけがない。それでも私はいつものように反応の予想をしながら、服の裾を握りしめて続ける。ゆっくり、ゆっくり、言葉の一つひとつを噛み締めながら。
「私、ネージュと過ごす時間、嫌いじゃないのよ」
「……僕もだよ。
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