外伝「鈍色のキャンパス」
VII.Fuga-Gigue-
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たものだ。こんな風景を眺め、なぜ死のうなんて思ったんだろう…。この風景は彼にとって何の価値も無かったんだろうか…?
そんな感傷に浸っている場合じゃないな。
「手分けして探しましょう。どこかにさっきと同じものがあるはずです。」
俺がそう言うや、直ぐ様散開して探し始めた。但し、田邊君は出入口付近だけに絞った。いざという時に、彼だけでも直ぐに逃げられる様にだ。本人に言えば拒否するだろうことを考え、単に割り当てということにしてあるが…。
暫く探したが、全く見付けられそうもなかった。薄暗くなってきたこともあるが、全く見当がつかないのが現実。
「日没までに何とか見付けないと…ここも崩落するか…。」
言わずと知れたことだ。
だが、このままでは駄目なんだ。何としても、これは防がなくてはならないのだ。
この屋上には、実は出入口が三ヶ所ある。東西の棟は二ヶ所なのだが、この中央棟は真ん中にもう一つ作られている。下にある楽器庫のためだ。
楽器庫には楽譜もあって設備も確りしてはいるが、年に数回、それらを整理したり掃除したりするために楽器庫から出すのだ。廊下では流石に全て出せないため、この屋上も利用している。そのための出入口というわけだ。
不意に俺はそれが気になり、何とはなしにそこへ行った。そうして、俺はそこへと飛び上がったのだ。背が高いと、こういうのでは便利だな。
「藤崎君、そんなとこへあるのかい…?」
俺が上がった時、国分教授がそう問い掛けてきた。
「下になかったとすれば、ここにあるんじゃないかと…。」
そう答えたものの、こうも暗くなってしまうとさっぱりだ…。端から触ってくのも考えたが、うまく触れないと駄目かも知れないしなぁ…。
「藤崎さん、これを!」
困っていた時、突然光と共に田邊君の声が横で聞こえた。ライトを持ってきたのだ。
「君、ここにきちゃいけないって…」
「それはどうでもいいです!早くあれを見付けないと!」
彼の言うことは尤もだ。彼の事は心配だが、俺はあれを見付けることを優先させた。
田邊君の照らす懐中電灯の明かりを頼りに探すと、それは不思議な程にあっさりと見つかった。
「これで終わりだ。」
俺はそう呟くと、直ぐ様それに手を触れた。
しかし…次の瞬間、今度は前とは違う結果をもたらした。
「な…!」
先の二つは砂となっただけだった。だが…この印に俺が触れた刹那、そこから亀裂が走ったのだ。
「国分教授、田邊君を!」
俺はそう叫ぶと、後方で待機しているはずの国分教授へと田邊君を投げた。そして次の瞬間、俺のいた場所は一気に崩落し、俺はそれに巻き込まれて共に落下したのだった。
「藤崎さん!」
俺の耳に最後に響いたのは、田邊少年の声だった…。
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