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藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
VII.Fuga-Gigue-
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後に何もないとは言い切れない。とすれば、ここで帰らせなくては…。彼に何かあれば、河内の死が無駄になってしまう。
「いいえ。建設業者の息子として、それは出来ません。」
 俺の心を知ってか知らずか、田邊君は凛としてそう返した。そして、立て続けにこう付け足した。
「藤崎さん…これは故意によるものと思われます。一ヶ所であれば老朽化や手抜き工事を疑いますが…似たような二ヶ所で同じような崩落…こんな崩れ方、今まで見たことありません。理論上、こういう崩落の仕方は考えにくいんです。」
 田邊君は真顔でそう言う。一体、どうしたらここまで子供らしさを失うのだろう?彼には彼なりの苦しみがあるのだろうと思う。だが、今はそれを考えている余裕はない…。
「藤崎さん…あれ…。」
 俺が言葉を返す前に、田邊君が目を見開いてとある方を指差した。
「…?」
 怪訝に思いながらも、俺は指差された方へと目を向けた瞬間…視線の先が崩落した。今度は東棟三階部分だった。
「な…何なんだ…どうしてこんな…。」
 俺には理解不能だった。
 こんなに容易く崩れるものだろうか?それもご丁寧に一部分ずつなんて…。
「これ…ペンタグラムではないですか?」
 茫然としている俺に、田邊君はそう言った。
「何だって?ペンタグラム?それって…五芒星のことだよね?それがどう関係してるって言うんだい?」
 俺は崩落し続ける東棟を見詰めながら、隣に立つ田邊君へと問い返した。
「僕は先程、崩落箇所が不自然だと言いましたが、最初の崩落の仕方も不自然だと感じていたんです。今の東棟の三階の一部分の崩落で、どうやら中央棟を中心として五芒星を描く様に崩れているのではと。どんな仕掛けをしたか分かりませんが、このままでは、少なくともあと二ヶ所崩れます。」
「何だって!?これで終わりじゃないって言うのかい?」
 俺は凍り付いた。まさか…ヤツは俺の思い出そのものまでも壊そうと…?俺一人のために、まるごと犠牲にしようとしたっていうのか?自分の命さえ投げ棄ててまで…。
「藤崎さん…大丈夫ですか?」
「大丈夫…。それで君の考えでは、残り二ヶ所はどこが崩れると?」
「多分、西棟三階…今崩れた東棟と対になる部分と、中央棟三階、北の突き当たり部分かと。」
 それを聞くや、俺は田邊君が止めるのも聞かずに走り出した。目指すは裏玄関だ。
 表玄関からでは東西に続く渡り廊下が崩落しているため、恐らく三階までは行けない。そのため、俺は被害の少ない裏玄関から入ることにしたのだ。今の東棟の崩落で多少の被害はあるにせよ、確実に三階までは行けるだろう。
 裏玄関に着くや、俺は直ぐに西棟の階段へと向かった。やはりエレベーターは停止しており、俺は階段を駆け上がることにしたのだ。
 数分も経たないうちに三階へと到着した俺は、直ちにあの
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