外伝「鈍色のキャンパス」
VI.Menuett
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から外へ出るには、中央棟からエレベーターを使って降りた方が早いのだ。
そうして歩いている時、河内は田邊君を見て彼へと話掛けた。
「君…田邊建設の御子息じゃないか?」
「はい、そうですが…よくご存知ですね。」
「いや、以前テレビでね。一度父親と一緒に出てただろ?それで見覚えがあったんだ。」
「あれは成り行き上、仕方無く…。」
この二人は何とも暢気な…。他の奴らはとっくに先へと行ってるってのに、俺らは未だ渡り廊下の出前だ…。
まぁ、田邊君の速度に合わせてるのもあるが、全員してそそくさと歩けば、周囲に要らぬ不安を与えかねないってのもある。
辺りを見ていると、楽器に不備が出て困っている様子は窺えるが、それ以外はどうということはない。
「河内、田邊君。そろそろいいかな?」
「ん?何がだ?別にこれといって急ぐことはないんだろ?」
俺の言葉に、河内が不思議そうに聞いてきた。
「いや、そろそろ学内放送が入ると思ってね。玄関に押し寄せた人波に巻き込まれると、田邊君が危ないから。」
「それもそうだな…。」
そうして渡り廊下の出前から速度を早めた。普段なら何人もの学生が行き来している筈だが、今日は人の気配がなかった…。恐らく、楽器の不備で皆が四苦八苦しているのだろう。
あまり気にすることなく渡り廊下へと入るや、俺は妙な違和感に襲われた。何だか胸苦しいような…。
半ばまで来たとき、その違和感は奇妙な音と共に正体を現した。
「何だ…これ…!?」
「京、どうかしたか?」
俺は河内に見たものを言おうとした刹那、それは一気に広がった。
俺が見たのは…床の亀裂だったのだ。河内は田邊君と話ながら歩いてたため、それを見落としてしまったのだ…。
「河内!」
亀裂は瞬く間に広がり、あろうことか渡り廊下を崩落させた。
だが、その一瞬…河内は隣にいた田邊君を俺へと突き飛ばし、俺はその衝撃で彼と共に亀裂の外側へと転がったのだった。
それはまるで白昼夢でも見ているようだった…。俺の目の前には…もはや渡り廊下はなく、もうもうと土煙の立つ上には青空さえ覗いていた。
「河内…河内!?」
俺は我に返ってそう叫んだが、もう河内の声を聞くことは出来なかった…。
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