暁 〜小説投稿サイト〜
藤崎京之介怪異譚
外伝「鈍色のキャンパス」
VI.Menuett
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話

 学内は騒然としていた。
「椎名教授、一体何があったんですか?」
 俺はオルガンを宮下教授と大西教授に任せ、田邊君と共に大ホールを出ていた。その時、椎名教授が偶然通り掛かったため、俺は教授を呼び止めて問ったのだった。
「私にもよく分からんのだ。私は弦楽器の手入れをしていたのだが、突然端から弦が切れてしまってな…今から足りない弦を買いに行くところなんだよ。私が気付いた時には、もうこの有り様でね。」
「弦が…端から?」
「練習用の弦楽器の大半は切れてしまった。こんなことは今まで一度も無かったんだが…。」
 そう椎名教授が話してくれたと思ったら、今度はピアノの有川教授とフルートの庄司教授が血相を変えて走ってきた。
「どうされたんですか?」
 椎名教授は慌てて二人を呼び止めた。この二人の教授が廊下を走るなんて、普通では考えられないからだ…。
 呼び止められた二人は困惑した表情を見せ、椎名教授へと答えを返した。
「ピアノの弦が全て切れたのよ…。練習用のスピネットからコンサート用のグランドピアノまで…。替えの弦が全く足りないから、これから調律師の草岡さんに連絡するところなのよ…。」
「こっちはフルートからオーボエまで…木管の殆んどに罅が入っちゃってて…。これから理事長のとこへ相談しに行くの。まさか…椎名教授も何か…?」
 問い返された椎名教授は溜め息を洩らし、「実は…そうなんです…。」と答えたのだった。
 教授達が互いにどうしたものかと考えている最中も、周囲はバタバタと誰かしら走り回っていた。恐らく…大半の楽器に異常が見付かっているのだろう…。
 そんな中、俺の後ろに着いていた田邊君が口を開いた。
「僕が意見するのもどうかと思ったんですが、一旦全員外へ出た方が宜しいのでは?管楽器に罅が入ったり弦が切れたりなんて…もしかしたら外圧と内圧のバランスが崩れてるのかも知れません。普通では有り得ないことですが、もしそうだとしたら人にも建物にも影響が出ますので。」
 それを聞くや、三人の教授は目を丸くした。どうみても小学生な子供が、学者の様なことを言っているのだから…。
「君…一体誰だね?」
 椎名教授がそう問うと、田邊君は一歩前に出て言った。
「失礼しました。僕は田邊陸と申します。父が建設業を営んでおりまして、つい口を出してしまいました。」
 田邊君がそう自己紹介すると、その場にいた全員が顔を強張らせた。
「まさか…あの田邊建設の…?」
「はい。父をご存知でしたか。」
「ご存知も何も…この大学は先代の田邊社長が天宮グループと一緒に建てたんだ。」
 そう…田邊建設は六代続く歴史ある建設業者だ。現在社長の修一氏もかなり名の知れた人物で、先に出た天宮グループと組んで幾つかのプロジェクトを立ち上げている。
 まさか…その子息がこんなと
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ