第三十話 春季大祭その三
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「たまたまですよ。トイレの帰りで」
「手は洗ったの?」
「それはもう勿論」
やっぱり今日も能天気な感じです。
「ちゃんと洗ってますよ。トイレに行ったらいつも」
「そうしないと駄目よ」
こう阿波野君に注意しました。
「さもないと不潔だからね。けれどいつも洗ってるのはいいことよ」
「それはどうも」
「それはいいけれど」
それでも。ここで終わればいいのに言葉が自然に出て来ます。何故か阿波野君に対してだけはどうしても言葉が出てしまいます。
「早く一年の席に戻った方がいいわよ」
「一年の席ですか」
「そうよ。だって今日は参拝で来ているのよ」
皆その割にはかなり適当ですけれど。それでもこのことは忘れてはいけません。かなり忘れていても心の何処かで覚えていないと駄目なのはわかってるんですが。
「当たり前じゃない」
「そうですね。そういえば確かに」
「わかったら早く戻りなさい」
また阿波野君に言いました。
「わかったわね」
「はい、それじゃあ」
「そうしなさい。早くね」
「ねえちっち」
またここで周りの皆が私に言ってきました。何か皆凄い笑顔です。その笑顔ときたら。芸能ゴシップを見るような顔になっています。それも熱愛発覚の。
「ひょっとしてこの子?」
「昨日東寮の前までデートした一年生って」
「あっ、御存知だったんですか?」
そして阿波野君は阿波野君でこんなことを言い出してきました。
「皆さん。いやあ、実はですね」
「違うからっ」
阿波野君が変なことを言う前に機先を制して言いました。
「それはね。絶対に違うから」
「ってムキになって否定しなくても」
「別にいいんじゃないの?」
皆私が全否定すると少し覚めた目で言ってきました。
「だから。別に悪いこと言ってないし」
「大体。今時手もつながないようなデートしても幹事さん達も何も言わないわよ」
「そうそう」
「だから。デートじゃないのよ」
またこのことを完全否定しました。自分でも焦っているのがわかります。
「この子とは。一緒に歩いただけで」
「昨日はずっとでしたよ」
最悪のタイミングでした。阿波野君がここでまた言わなくていいことを。
「先輩に色々なこと教えてもらって」
「教えてもらって!?」
「ひょっとしてそれって」
皆の目が阿波野君の今の変な言葉で。見る見るうちに変わってきました。
「キスだけじゃないとか!?」
「けれどちっちそれもまだって言ってるじゃない」
「どうだか」
皆私を怪しむ目で見つつひそひとと話をしだしました。
「案外。年下の子に」
「教えるって。凄く嫌らしいけれど」
「まさかね」
「まさかも何もそんなことないから」
本気で怒ってしまいました。また八重歯を見せてしまいます。
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