巻ノ四十四 上田への帰参その五
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「至らぬところが多く」
「何不自由ない暮らしでしたが」
「だといいのですが」
「鍛錬に学問に励むことが出来」
「我等もです」
「実によくしてもらいました」
十勇士達も言うのだった。
「ですから」
「何も不自由はありませんでした」
「まさに何もです」
「実によい暮らしでした」
「左様ですか、では上田に戻られましたら」
兼続は十勇士達にも言った、彼等の言葉を受けたうえで。
「是非です」
「はい、鍛錬と学問をですな」
「その両方を」
「生かして下され」
是非にというのだった。
「おそらくこれから多くのことがあるでしょうから」
「我等にはですか」
「だからですな」
「その試練に対して」
「越後での鍛錬、学問を」
「そうしたものを」
「生かして下さい」
是非にという言葉だった。
「天下の為に」
「若し戦になりましたら」
その時のことをだ、幸村は兼続に確かな声で答えた。
「それがし越後のこともです」
「生かされますな」
「そうします」
こう兼続にだ、はっきりと答えたのだった。
「是非」
「ではその様に」
「はい、していきまする」
約束した言葉だった、そうしてだった。
幸村は北陸の春日山への道中を進んでいた、道中は平穏であり春日山にも程なくして着いた。そしてその暫く後でだった。
幸村に文が届いた、景勝はそれを幸村に見せて言った。
「真田殿からな」
「父上からの文ですか」
「うむ」
相変わらず寡黙であった。
「それが来た」
「左様ですな」
「貴殿が読まれよ」
こう言ってだ、幸村自身に読ませたのだった。
その文を読みだ、幸村は景勝に述べた。
「上田にです」
「そうだな」
「上杉殿とのお話は」
「整っておる」
景勝は簡潔に述べた。
「こちらは問題ない」
「それでは」
「用意が出来次第だ」
そうなればというのだ。
「すぐに発つのだ」
「そうして宜しいのですか」
「今言った」
まさにというのだ。
「既に話は整っておる」
「では」
「色々と至らず」
景勝もだ、こう幸村に言った。
「済まなかった」
「いえ、何もかもがです」
「足りておったか」
「はい、不自由なぞです」
それこそというのだ。
「何もありませぬでした」
「ならよいがな」
「この越後でのことは忘れませぬ」
そこで得た糧はというのだ。
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