巻ノ四十四 上田への帰参その四
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「今申し上げた連中にはないのです」
「全く、あの様な者達が当家にいるなぞ」
榊原は忌々しげな顔で酒を飲みつつ話した。
「腹立たしいことであります」
「ですから真田殿もです」
「信義は忘れないで下され」
二人で信之に言うのだった。
「この義も大事です」
「何といいましても」
「真田殿ならば全ての義を忘れられぬ」
義父となる本多も言った。
「それがしもそう思うからこそ」
「それがしにですな」
「娘を預け申す」
彼の人柄も見込んでのことだというのだ。
「そして何かあれば」
「その時はですな」
「轡を並べましょうぞ」
「さすれば」
信之も本多の言葉に頷いた、そしてだった。
彼は杯の酒を飲んだ、それからまた言った。
「この酒とは間もなく別れますが」
「はい、しかしですな」
「この酒の味はですな」
「忘れぬ」
「そう言って頂けますか」
「そのつもりです」
まさにというのだ、こう話しながら本多が差し出してくれた瓢箪から礼と共に酒を飲みだ。彼はあらためて言った。
「決して」
「それは何より」
「では上田に戻られましても」
「武士としてです」
「義を忘れないで下され」
「肝に命じました」
「それでなのですが」
また本多が言って来た。
「殿はです」
「徳川殿はですか」
「真田殿を非常に大事に思われているので」
「はい、有り難いことに」
「何かありましたら」
「その時はですか」
「殿を、当家をお頼り下され」
是非にという言葉だった。
「当家は決して真田殿を見捨てませぬ」
「何があろうとも」
「はい、信義に賭けて」
その信義を出した言葉だった、彼等が何よりも大事にしている。
「そう致します」
「有り難きお言葉、それでは」
「上田に戻られてもお元気で」
「畏まりました」
そうした話をした信之だった、四天王達とも。彼のこうした宴は知られなかったがそのおおよその動きはわかってだった。
それでだ、兼続は越後に戻る道中で幸村に言うのだった。
「兄君もです」
「そうですか、上田にですか」
「戻られるとのことです」
「それで、ですか」
「はい、源四郎殿もです」
その幸村もというのだ。
「お帰り頂きます」
「そうなりますか」
ここでだ、幸村は感慨を込めて言ったのだった。
「短い間でしたが」
「いやいや、こちらこそです」
兼続はその幸村に謙遜して返した。
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