巻ノ四十四 上田への帰参その二
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「日々馳走に美酒、何と有り難い」
「いやいや、馳走なぞ」
そこはとんでもないと言う家康だった。
「真田殿は特別扱いしておらぬ」
「そう言われますが」
「麦飯や玄米の飯に粗末なおかずばかりで」
「どの飯も非常に心が篭っておりました」
それでというのだ。
「馳走でした」
「そう言われますか」
「はい、非常に」
実際にというのだ。
「まことに有り難かったです」
「ならよいが」
「まことに感謝しております」
家康に心から述べた言葉だった。
「実に」
「それでは」
「はい、このことは忘れませぬ」
絶対にというのだ。
「駿府でのことは」
「それでは」
「はい、それでは」
こう話してだ、そしてだった。
信之は婚姻と共に上田に戻ることになった、その話をした夜だった。
彼は酒井の屋敷に呼ばれそこで酒を馳走になった。見ればそこには四天王が全て集まっていてだった。
信之に酒を出してだ、共に飲みつつ話した。
「上田に戻られてもです」
「お元気で」
「そして日々文武に励まれ」
「ご自身を磨かれて下さい」
「はい、駿府にいた時と同じく」
信之は本多から杯に酒を受けつつ応えた。
「このことはです」
「忘れぬと」
「そう言われますか」
「その様に」
「そして実際にですな」
「励みます」
文武の修行にというのだ。
「そうさせてもらいます」
「それがしはです」
本多が信之に言って来た。
「真田殿に立派な武士になって頂きたいのです」
「文武の修行に励み」
「そして人としてもです」
「見事にですな」
「武士にです」
精神的な意味においてもというのだ。
「なって頂きたいのです」
「わかりました、それでは」
「はい、お願い申す」
義父となる者からの言葉だった、そしてだった。
榊原は肴の塩を舐めつつだ、こう信之に言った。
「政もですな」
「民の為に」
「励まれて下され」
「そのつもりです」
「真田殿は政の才もおありです」
文武だけでなくというのだ。
「ですから」
「そちらもですな」
「頑張って下され」
「さすれば」
「いや、政はです」
今度は井伊が言って来た。
「やはり最も大事ですな」
「民の為にも」
「ですから」
それでというのだ。
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