第四話 誘惑と驚愕 その五
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絶対的戦力と認知されている。
実際、魔法がなければこちらの生活はここまでの水準にはなかったであろうし、まあそれについては、ルーンの精神汚染を拭った今、もう否定する気はない。
だが、己がそこまで尊敬される筋合いはほぼないと思っていたアーチャーは、この場の勢いにただただ圧倒された。
「それでそれで!? 今日はどんな用件でこっちに来てくれたんだ?」
「マルトーさん、アーチャーさんはどうやらお腹が空いているようなんです」
「なぁにぃい?――――聞いたかてぇら!」
おう!とあちこちで野太い声が上がる。
アーチャーはこの空気に口を挟む機会を失い、促されるまま、厨房の椅子に座らされる。
それを見届けた厨房の雰囲気が一変。エンジンに火を入れたかのごとく人が回り始める。
今日の余剰分を算出し、それで作れる最高クオリティの料理を出せと檄が飛ぶ。
そして、アーチャーが着席してから数分後、
「さあ、たっぷりと食べてくれ!」
「あ、ああ」
アーチャーの前には、湯気を立て存在を主張するシチューの姿があった。
それを前に、ここで手を付けないのも無礼に当たるとアーチャーは確信し、それを口にする。
瞬間、
「―――うまい」
その一言が、口をついて出た。
うおおおお!とまたも歓声が上がる。
料理には人一倍敏感なアーチャーだが、文句のつけようのないくらいの仕上がりだった。
下ごしらえ、スパイス、煮込み時間。その全てを取って、完璧だった。
瞬く間に空腹のアーチャーの胃にその全てが収まり、受け取った布巾で口を拭ったアーチャーは、口を開いた。
「……マルトー殿」
「どうした、何か苦手なもんでもあったか!?」
「いや、そうではない。ただ、これほどの料理に巡り合ったのは久しぶりだ」
「そうかそうか! ありがとよ、我らが剣よ!」
豪快に頷くマルトー。
周囲に、弛緩した空気が流れる。
「いや、こんなもんで良ければ、いつでも食べに来てくれ、我らが剣よ!」
「ああ、それは良いのだが…我らが剣というのは?」
「あんたは俺らと同じ平民でありながら、あのいけすかねぇ貴族のガキを圧倒しちまうような体術と剣術の持ち主だ。すなわち、俺らの剣ってとこだ!」
「いや、別に大したことはしたつもりはないのだがな……」
「聞いたか、てめえら! あれは大したことじゃねえらしい! いやあ、貴族とは違って、我らが剣は変にえばらねえのよ!」
流石は我らが剣だ!ああ、そうだそうだ!と口々に囃し立てる周囲に、アーチャーはぽつりと、本当に大したことはしていないのだがな……と呟いたが、それは誰の耳にも入ることはなかった。
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