第四話 誘惑と驚愕 その五
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ひょっとしなくてもそうである。
「今朝から何も食べてはいないが、別に行動に支障が出る程ではない」
「でも、お腹は空いてるんですよね?」
「そう、だな」
曖昧に頷くアーチャーに対し、シエスタは手を叩き、
「でしたら、少しお時間よろしいでしょうか?」
そこから先は早かった。
あれよあれよという間に洗濯物の後片付けを終え、アルヴィーズ食堂の裏、すなわち厨房へと連行されていた。
朝方のピークが終了し、厨房にはまるで戦場での一時休戦に至福を見出す軍人のような空気が漂っていた。
少し厨房を見回し、アーチャーは舌を巻いた。
整った設備、食材の鮮度管理、衛生管理、それらのクオリティもさることながら、
(これぽっちの少人数で、あの生徒数を相手取るとは……中々の猛者たちのようだな…)
自身もよく厨房に立っていた経験からか、料理の苦労は人並みには理解があるつもりだ。
その経験から言えば、いくら設備が魔法等で非常に高い水準で整っていようとも、ここの料理人の人数に対し、生徒の数が多すぎる。
並の料理人であれば、その仕事量から半日で音を上げてしまっても文句が言えない状況であろう。
だが、ここの料理人たちはどうだ。
人数が少ないながらも、これだけの仕事を疲労の表情は見せようとも、文句ひとつ言わずにやり遂げる。
まさに、少数精鋭である。
アーチャーが感心していると、シエスタは声を張り上げ、
「すみませーん! 料理長マルトーさんはいらっしゃいますか?」
「おお? どうしたシエスタ? まかないの時間にはまだ早―――」
シエスタの声を聞き届けたのか、奥から周りの料理人よりも二回りは大きなコックハットを被った、色黒で大柄な男が現れた。
「その赤い外套に白い頭髪! あのいけすかねぇ貴族のガキを倒したっていう、アーチャーってのはあんたか!?」
マルトーと呼ばれた男は、アーチャーをその視界に捉えると、目を丸くして、腹から湧き上がるような大声でアーチャーに問うた。
すると、それを聞いた周囲の料理人や使用人たちは一瞬で顔色を変え、アーチャーの返答を待った。
「……この学院に、私の他に赤い外套と白髪で、アーチャーと言う人物がいないのであれば、それは私の事だろうな」
――――おおおおおおお!!!
その返答を待っていた、とばかりに歓声が沸き上がる。
なんだこれは、と困惑するアーチャーに、シエスタが横から告げる。
「平民で貴族を倒しちゃうなんて、滅多にないことなんですよ? だから、皆アーチャーさんを尊敬してるんです」
「……そう、なのか」
この世界ではメイジは絶対的基準であり、
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