第四話 誘惑と驚愕 その五
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……あ!」
その小さく開閉する口から声が漏れたかと思うと、次第に四肢が震えだした。
震え出した四肢のせいで、洗濯物が揺れる。そのせいで、何もない平地で足を絡ませ、躓いた。
「あっ!」
やってしまった!という顔で朱から蒼に変わった顔で、シエスタの身体が前方に倒れていく。
こんなことなら、横着せずに小分けにして運んでいくんだった!とギュッと目をつむりながらシエスタの顔に浮かぶのを見て、アーチャーは嘆息し、
「何をやっているのかね…」
倒れゆく身体を右手で絡めとるかのように優しく支え、左手で洗濯塔のバランスを取った。
それだけならば、ありがとう。どういたしまして。の二文でことは終了するのだが、そこは流石、というべきなのか。
回された右手は、たわわに実った少女の果実を上から押しつぶすかのようなポジションを取っていた。
「ああ、すまないね。まあ、怪我はなく洗濯物も無事だったのだから、安い出費だと割り切ってもらえると助かるのだが……」
「……え……あ、ああ! きゃあああああ!」
そんなことをぼやくアーチャーだが、花も恥じらう年頃の乙女であるシエスタは堪らず声を上げる。
やはりこうなったか、と右手に少女、左手に洗濯物を保持したまま、アーチャーは器用に肩を竦めた。
「まあ、こんなものだろう」
「あ、ありがとうございました……!」
どこかまだ顔に朱を残したシエスタは、大きく頭を下げた。
「気にすることはない。別にシエスタが私にやれ、と命じたわけではないのだからな」
シエスタが落ち着きを取り戻し、どこか危なっかしい彼女を見ていられなかったアーチャーは、遠慮するシエスタから半ば掠め取るかのように洗濯物を手分けして片づけた。
「で、でも危ないところを助けていただいて、更に洗濯物まで手伝ってもらってしまったんですから、何かお礼をさせてください!」
塔になるまで積み上げられていた大量の洗濯物は、全てきちんと竿に干されていた。
時折風が吹き、洗濯物が靡く。ばさりばさりと、すがすがしさ含んだ音が二人に達成感を運んだ。
別に何もいらんよ、と手を振るアーチャーに、で、でも!と食い下がるシエスタ。
そんな時、
ぐ〜〜〜。
と間抜けな音を立てアーチャーの腹の虫が食事を催促した。
アーチャーは今朝の諍いのせいで、今日はまだ何も胃に収めて事を思い出した。今の今まで、大事の前の小事とばかりにそのことを忘れていた。
そんな虫の声を聞いたシエスタは、一瞬きょとんとくす、と小さく口に手を当てて微笑んだ。
「ひょっとして、お腹が空いているんじゃないんですか?」
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