暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 17
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
自作した人形第一号だ。手間隙掛けた分の愛着はあるが、金銀財宝に並ぶ価値なんか無い。盗むだけ無駄だろう。
 「ミートリッテ、夕飯はまだでしょう? 一緒に食べましょうか」
 二階へ戻ろうとした背中に、落ち着いた声が掛けられた。
 「へ? まだ食べてなかったの?」
 「一度始めたらなかなか止められなくて。ああ、今日は私が作るわ。任せて。……そんな目で見なくても大丈夫よ。今度はちゃんと作るから」
 心配が表に出たらしい。苦笑いで、少し待っててと調理場を追い立てられてしまった。
 仕方なく二階へ戻り、ベッドに転がって出来上がりを待つ。
 ふと、バッグの中に入っている、紙を数十枚重ねて紐を通した簡易本を取り出し、仰向けになって中身をパラパラと見直した。
 怪盗を始める少し前に知った世界。ハウィスにも内緒で描き続けた夢。
 いつか……南方領の経済が良いほうに安定して怪盗の存在が必要無くなったら、本格的にこの道を進んでみたかった。
 教会の内部に興味があると言ったのは、指輪の存在を除いても嘘ではない。其処にも確かに有ったし、実際に触れてみて内心は感激していた。こういう物を自分の手で作り出せたなら、と。
 だが。
 顔の上で静かに閉じた本の中身が実現する可能性は、もう無い。その機会は海賊達の襲来によって失われた。自らの悪行が招いた結果だ。
 「ハウィスに……あげたかったなぁ」
 自分で壊した未来を胸に抱えて、横向きに縮こまる。
 思い描いたのは何年後かのハウィスの笑顔。素敵な旦那様と可愛い子供が居て、仲良し一家はミートリッテが贈った物を大切に使ってくれるのだ。その時のミートリッテは、村に居ても居なくても良い。でも、名前はアルスエルナの各所に知られていると嬉しい。収入の大半は材料費と孤児院に回して、手元には生活費があれば十分。そして……
 「夕飯が出来たわよ、下りて来て」
 階下からハウィスに呼ばれ、妄想時間は終わりを告げた。
 「はーい」
 慌てて本をバッグに仕舞い、部屋を飛び出す。
 「あ。本当にちゃんと作ってる」
 「私だって、やればできるのよ」
 むくれるハウィスと向かい合って着席すると、テーブルの上には具が少なめなクリームシチューが一皿ずつ、小さなバターロールが一つずつ用意されていた。
 遅い夕食だけあって、コクのある香りに触発されたお腹がきゅるると切ない声を上げる。
 「「いただきます」」
 二人同時に手を合わせて、まろやかな舌触りとバターのふんわりした甘い香りを堪能する。
 パンを千切ってシチューに浸せば、これはこれで贅沢な食べ方。食事は人を幸せにしてくれる一時だと、ほっこり気分になる。
 ……朝食の惨事は例外だ。
 「「ごちそうさまでした」」
 食べ終わりもほぼ同時で、食器の片付けはミートリッテが進んで請
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ