第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第三節 群青 第五話 (通算第75話)
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ブレックスは傍らにいたヘンケンに親書を渡した。それは、訝しがっていたヘンケンの表情を、苦虫を噛んだような顔へ変えるのに充分すぎる内容だった。つられて、シャアも覗き込む。
「これは……」
「なんてことだ……」
二人とも息を飲んだ。絶句したと言っていい。衝撃的な内容というよりも、信じたくないという方が強い。しかし、歴史的に見ても軍人の全てが立派であるということはない。権力と暴力を自分自身の力と勘違いした唯我独尊的な軍人の方が多いのであり、地球連邦軍とて例外ではない。表沙汰にならないのは軍と警察の隠蔽体質、そして政府の報道管制の賜物である。
ブレックスは押し黙ったまま、エマを軽く睨んでいた。睨まれた方のエマは、理由も解らず、困惑していた。その困惑を看てとったブレックスはエマを見据えて訊ねた。
「中尉は親書の中を知らないのだね?」
「はい……」
ブレックスの確信に満ちた問いに対して、エマの声は弱い。和平の使者として来たからには、親書に非難されるような内容が書かれているとは予想する筈もないが、ブレックスに言わせれば、バスクという人間を知らなすぎるとしか思えない。果たしてその通りであるとして、エマが批難されるべきかどうか。エマからすれば、ブレックスらの批難は寝耳に水――信じられない思いである。
そんなエマの態度にヘンケンがシャアと顔を見合せると、ブレックスが頷いた。エマに親書を見せようと言うのである。ヘンケンがエマに手渡した。
「見たまえ、中尉。これがバスクという人間だよ」
そこに書かれていたのは、市民を守るための軍隊が民間人を人質にとり、相手を脅迫している事実である。
「《ガンダムマークII》を返さなければ、メズーン・メックスの両親および関係者の命はない――」
手渡された親書をみれば、ブレックスたちの反応は尤もだと言える。だが……
「そんなっ……これは、何かの間違いです!」
エマは必死に言い放った。目の前で自分が信じていたものが崩れ去っても、それに拠った自分のプライドが拒否した。だが、いくら否定しても、それは虚しく空を切るだけの言葉に過ぎなかった。何故ならば、親書の字はバスクの直筆に間違いないからだ。
「否定したい気持ちは判る。だが、ティターンズはまともな軍隊ではない」
エマの顔が驚愕に満ちる。ティターンズはエリートであると信じていたエマにとって、それは自分を否定されたに等しい。だが、親書を見せられた今、何を言っても苦しい言い訳にしか聞こえないと解る。だが、言わずにはいられなかった。
「我々はジオンの残党から宇宙を守るために……」
「それが詭弁でなくて、なんだというんだね。所詮、ティターンズは私兵だよ」
抗弁を柔らかく手で遮った、穏やかなブレックスの声がエマの心に突き刺さる。辛うじて絞り出た声は震えていた。
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