第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第三節 群青 第五話 (通算第75話)
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「……バスク、大佐の私兵だと?」
「いいや。バスクのではない。もっと多くの地球の重力に魂を引かれた人々、全ての、だよ」
静かにブレックスか言う。その静かさが確固たる思いを屹立させていた。エマもバスクやジャミトフの私兵だと言われれば否定のしようもあったかもしれない。しかし、地球の重力に魂を引かれた人々と言われてしまっては、否定できるだけの言葉も根拠もありはしなかった。
「……重力に魂を引かれた人々……」
単にアースノイド・スペースノイドという言い方でないことが、エマに聞く耳を与えたのかもしれない。ブレックスの言葉を呟いて、反芻してみる。
地球にいた時と違い、宇宙に上がってみると、理想と現実の差というものが見えてきていた。それでも、なお、ティターンズの理想を信じ、地球を守ろうという気概と誇りを持って任務を遂行してきたエマにとって、ティターンズが私兵だと言われたことは、予想外のことだった。ブレックスの口振りからすれば、エゥーゴは違うと言いたいのが理解できる。そして、エマにはティターンズの傲慢さも理解できない訳ではない。
「で、どうしますか? 人命が掛かっていますし……」
エマを気にしながらも、ヘンケンが結論を急かす。バスクとて部下が《アーガマ》にいる以上、発砲はしないと思いたいが、あまり時間を掛ける訳にはいかない。しびれを切らしたバスクが作戦を強行しないとも限らない。
「艦長、私にバスクの言いなりになれというのか?」
ブレックスとてそうは言ったものの、割りきれぬ感情があった。人質を見殺しにするという選択肢は選びたくない、しかし、入手した《ガンダム》を返すというのも、できる相談ではない。プライドの問題ではなく、スポンサーの意向と戦力や今後の戦略にも絡んでくる。
「せめて、クワトロ大尉の部隊が使えたらな……」
それはぼやきに近い。
現時点で、ジオン共和国がエゥーゴの反ティターンズ派に与しているのを知られる訳にはいかない。シャアたちがエゥーゴの制服を着、MSさえアナハイムの擬装をさせた意味がなくなる。
だが、人質救出作戦を実施しながら、追手から逃げ切るには今の戦力では心許ないのも事実である。最善の方法はないものか……その場にいる全員が、途方に呉れた。エマも含めてである。
エマはなんとしても、バスクに――いや、ティターンズにこの様な卑劣な作戦を実施させる訳にはいかなかった。少なくとも、人質を殺させてはならない。そのためには、裏切り者の汚名を着たとしても。
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