第4ヶ条
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に対して小さく溜息をついた時点で気付いてしまった。俺が握りしめていたアイスが棒だけになっていたことに。そして、数分前までそこにあったはずのアイスは液体となり、俺のズボンに染み込んでいっていることに。
「あ。」
*****
次の日の放課後。美山さんを裏門で待っている最中に昨日の公園での花陽との会話を思い出す。
「名前か。うーん、今日頑張ってみるかな。…美森って。」
おおお。何か独り言で呼んでみても恥ずかしさが抜けない。これは中々の勇気がいるのではないか。いや、花陽も言っていたけど、俺が頑張らないと現状は変わらない。
でも、もう少し練習しておこうかな。
「…美森。」
「はい?」
「え?」
慌てて振り返ると美山さんが小さく首を傾げながら立っていた。もしかして、さっきの練習を聞いた?聞いたのか?
「や、やあ。暑い日が続くねえ。さ、帰ろう。」
俺はその話題に触れずに、歩き出す。…今、チャンスだったのではないのか。いや、まだ機会はあるはず。そう自分に言い聞かす。
美山さんもいつも通り俺の半歩後ろについて歩き出した。
「ねえ、伊笠君?」
俺は緊張して機械のように固くなった首を美山さんのほうに向けた。
「さっき私の下の名前を呼んでくれてた?」
はうっ。俺が想定していたよりも、かなり早い段階で次のチャンスが訪れてきた。
「…呼んだ。その、私たち晴れて彼氏彼女なんだから、美山さんのこと、…美森って呼びたいなあ、と。嫌かな?」
ちょっと言葉遣いが変になった気がしなくもないが、気にしない。
半歩後ろで歩く美山さんの足が止まった。そして、普段は凛々しいその目尻を下げ俺を見つめる。
「嫌じゃない。」
そう言うと、美山さんは俺の隣に並んだ。制服のスカートが小さく揺れる。
「距離が縮まった感じがして、うん、嬉しい。」
「…美森。」
美山さん、いや、美森の可愛さに今度は自然にその名前が俺の口から出た。
「ふふっ。」
美森は少し恥ずかし気に、そして嬉しそうに小さく笑う。
こんな幸せな時間を俺は過ごしていいのだろうか。そう思えるくらいに心が溶ける。
「なに?アナタ。」
「ふふっ。」
俺も美森に微笑み返す。…まて。アナタ?
「アナタ?」
「あれ?おかしい?」
美森は至って真面目な表情で首を傾げた。さすが。さすがは美森だ。
「んー…、アナタって呼ばれる日を美森と迎えたい気持ちで一杯なんだけど、それは少し、ほんの少し時期が早いような。」
「そういうものなんだ。」
「ヒナオでいいよ。いや、ヒナオがいいな。」
美森は頬を少し赤くしながら頷いた。
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