第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第三節 群青 第四話 (通算第74話)
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いた。
エゥーゴはティターンズの結成後、月の防衛力向上を目的に設立されたことになってはいるが、実際にはスペースノイドの弾圧に走ったティターンズへの牽制が目的であった。それは戦後の複雑怪奇な軍閥情勢の写し鏡とも言える。月面恒久都市企業連合に指揮権はないが、設立の経緯からして、月企連は事実上のスポンサーであり、ある程度の融通は連邦政府も、ジオン共和国も、各サイド自治政府も聞かざるを得ない。が故に、エゥーゴの装備は制約が設けられ、旧式のものが多く、新兵器の配備や独自開発は有形無形の妨げにより難しかった。だが、現に新造艦がこうして存在している。エマはそこにアナハイム・エレクトロニクス社の強い介入があるとみた。
つまりは連邦政府も軍上層部も一枚岩ではない…ということだ。戦後の軍閥抗争は激しさを増すばかりであり、デラーズの乱以後、特に陸軍閥の伸長は目を見張るものがあったが、それに対する反発が深刻化していたことを思い知らされた気がした。このことは、エマにとって衝撃であり、エゥーゴに対する見方を少しだけ変えさせるきっかけとなった。それでもまだ、感覚的には極悪なテロリストの巣窟からテロリストまがいの反戦主義者への格上げぐらいに留まっている。だが、正義は自分たちだけのものではないというぐらつきは、今までティターンズの正義を疑わなかったエマにとって大きな動揺だった。
「サエキ軍曹であります。エマ・シーン中尉をお連れしました」
インターホン越しに応じる声があり、司令室の扉が開いた。サエキが先に入り、踵を鳴らして直立不動の姿勢をとる。サエキが敬礼する相手こそ、ブレックス・フォーラであった。バスク・オムの様な威圧感はないが、力強い眼と柔和な笑みが印象的だとエマは思った。エマは敬礼しつつ、何故か自分が緊張していないことに疑問を持った。
「ティターンズのエマ・シーン中尉です。バスク・オム大佐より直筆の親書を預かっております。即答をいただいてくるように、仰せつかっております」
胸ポケットから洋封筒を取り出し、ブレックスに渡す。蜜蝋で封された親書はティターンズの官給品であるが、金の縁取りが随所に施された古代の貴族が使っていそうな古めかしくも伝統的な封書である。
面白くもなさそうに親書を一瞥し、無造作に封切った。読み進むブレックスの余裕のある笑みが見る間に憤りに代わった。
「なんと破廉恥なっ」
エマは訳が解らなかった。聞いているのは和平の使者としてブレックスに直接親書を渡し、即答を貰ってくるということだけであった。
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