第一部 刻の鼓動
第四章 エマ・シーン
第三節 群青 第三話 (通算第73話)
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ェリドがフライパスを失敗したのは、シャアがそう仕向けたからなのだが、メズーンはそれを知らない。ジェリドがフライパスをし損ねて官舎を破壊したことは事実である。
メズーンの関心は、そんなことよりも降りてくるパイロットに注がれていた。追撃隊の中であれ程の技倆を持ったパイロットを知らなかったからだ。
オープンデッキになっているカタパルトに佇んだ〈01〉と肩に描かれた黒い《ガンダム》はエマ機の筈だ。だが、着艦の操縦を見る限り、機体の動き方は滑らかで、機体を丁寧に扱っている。エマがこれ程の技倆とは思えなかった。基本的に機体はパイロットの専属であり、おいそれと乗り換えるものではない。とすれば、やはりエマなのか――?
答えはすぐにでた。
パイロットスーツには女性である起伏があった。サイド7にいたティターンズの女性パイロットといえば数名に限られる。しかも《ガンダム》のパイロットである。やはり、エマに違いなかった。
「エマ中尉……!」
メズーンは呻いた。
その時、甲板員が《ガンダム》を繋留しようとしてパイロットに止められた。敵機が着艦するとあって、回線はオープンに設定されている。スピーカーから聞こえた声はメズーンを詰問した、あの声だった。
「この機体に近づく者があれば、あの《クゥエル》が撃ちます」
間違いなかった。冷静だか、冷たくない、柔らかな声。オリエント風な顔立ちに、勝ち気さの覗く、アースノイドでありながら、メズーンたちを蔑視することのなかったエマ本人である。拳銃を向けた負い目もあり、逃げ出したい衝動に駆られた。
エマが指差した先には、着艦せずに《アーガマ》に並走する《クゥエル》がいた。ビームライフルを構え、デッキをロックオンしている。怯えたように甲板員は退散した。デッキクルーは転倒したりしないように《ガンダム》にワイヤーを張ろうとしただけだと喚いたが、エマは無視した。甲板長が、拳銃をホルスターから出して、近づいてくるのが見えたからだ。
小さく嘆息を吐いて、見咎める視線で一瞥する。そして、険しい声を挙げた。
「私は投降した訳ではない。貴方がたエゥーゴには、和平の使者に銃を向ける軍規でもあるというの?……まるで、テロリスト……いえ、そのものね。恥を知りなさいっ! それでも栄えある連邦軍の一員?」
甲板長は面食らったように立ち尽くし、絶句したまま銃を下ろした。命令に従っただけの彼に責任はなかった。
エゥーゴはティターンズと並んで実戦経験の豊かな部隊であると言われているが、反政府運動に加担するものの殆どが、軍籍履歴のない者であり、レコアのような者ばかりではなかった。
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