第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
10話 深淵と日向の狭間
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論で判断すれば正しかっただろうが、他者の死を利用した手段が正しかったとは今でも思えない。
「………どうかしたの? また暗い顔になってるわよ?」
「いや、旦那さんから貰った指輪まで捨てることなかったんじゃないかって思ってさ」
「良いのよ。むしろ、きれいさっぱり清算しといた方がスッキリするじゃない」
「そういうものか?」
「そういうものよ………だって、この世界のことを引き摺ってたら………」
朝の日差しを背に、グリセルダさんはいっそ無邪気なまでの笑顔で振り向く。
その笑顔が物語っていた。俺は間違っていないと肯定してくれる優しい笑顔に、妙に救われた気がしつつ、続く言葉に耳を傾けた。
「こんなつまらない事をウジウジ引き摺ってたら、リアルで旦那に『おはよう』って言えないじゃない?」
こんな時でさえも惚気られる親友に苦笑しつつ、俺も街へ戻るべく立ち上がる。
そう遠くないうちに、嘘と誠の二つの指輪は時間に飲まれて消滅するだろう。
でも、いつまでも苦痛を背負って立ち止まっているわけにもいかないのだから、やがては言い訳を捨て去って前に進まねばならない。きっと、あの遠くへ消えていった指輪が、グリセルダさんにとっての過去の枷なのだろう。一切の迷いを振り切ったようなグリセルダさんが身を屈めて視線を合わせると、まだ涙の止まらないまま柔らかい笑顔を作ってみせる。
「俺もそろそろ前を見なきゃ、仲間に置いて行かれそうだ」
「じゃあ、これでおしまい。これからまた頑張りましょう?」
「………そうだな、そうしよう」
朝霧の晴れた森に、骸はどこにもなくなっていた。
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