第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
10話 深淵と日向の狭間
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ジを呼び出し、オブジェクト化したのは黄金色で細身の指輪。内側には向き合うように二つの名が刻まれたオーソドックスなエンゲージリングを右の掌に載せると、今度はグリセルダさんが左手の薬指に嵌っていた同じ形状の指輪を外しては、双方を寄り添わせるように並べて見せる。
「………いきなり、どうしたんだ?」
「スレイド君の方は決着がついたから、今度は私の番よね」
言いつつ、グリセルダさんは名残惜しそうに見つめていた両の指輪を遠投してしまった。
達成感と哀愁が入り混じる表情で指輪の行方を眺めながら、これも已む無しと言わんばかりの溜め息を零す。腰に両手をつく後ろ姿が妙に清々しく見えて、でも苦しそうで痛々しい。
「指輪、捨てて良かったのか?」
「良いのよ。これが私なりの落としどころなんだから………あの人のくれた《この世界での愛の証》と、スレイド君の作ってくれた《生きる為の嘘》………両方とも、この辺りで休ませてあげないと私たちだって昔に縛られちゃうから、これで良いのよ」
あの人――――彼女の旦那が、この世界でも変わらずグリセルダさんを愛そうとする誓いの結晶たる《本物の結婚指輪》。
半年前の誘拐殺人未遂の裏側を恐れた俺がグリセルダさんを生かすべく、彼女の死を偽装するためだけに作り出した曰く付きの《偽りの結婚指輪》。
その指輪の発端は当時、アルゴに急行してもらった生命の碑にて事件発生時に近い死亡時刻を刻んだ《Grithellda》が確認したことに起因する。クーネ達にグリセルダさんの回収と事後処理を依頼した後、可及的速やかに執行された死の偽装は酷く悍ましい行いだっただろう。
アルゴから確認した《Grithellda》の死亡時刻に合わせ、グリセルダさんにギルド脱退とフレンド枠削除をさせるようクーネ達に託す。PKの仕業としてしまえば、救助を呼ばれるリスクを減らすとか雑多な理由で片付けられる。良くも悪くも死人に口はない。
更に《Grimlock》と《Grithellda》の両名の名を刻んで偽造したレイ謹製の結婚指輪と、グリセルダさんの持つギルドの印章とを受け取り、黄金林檎のギルドホームに俺が届ける。
実行したことと言えば、本当にそれだけ。
しかし、一つでも条件が欠落すれば偽装は破綻していたし、精神が薄弱となったグリセルダさんを黄金林檎に引き渡してしまえばそれだけで済んでいた可能性さえある。それでも、俺はグリセルダさんを狙った人物が判然としなかった以上は大人しく帰らせることこそ回避すべきだと思ってしまっていた。
恐怖に耐えられず、涙にくれるグリセルダさんの口から聞かされたオレンジプレイヤーの発言。
彼女の旦那が黒幕であったからこそ、結果
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