第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
10話 深淵と日向の狭間
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選択肢は無かった。だから………俺はこの前のように殺せるだけ殺した………解るよな? 俺は、アンタの思っているような人間じゃない。アンタが前に言った通り、俺は殺人鬼なんだよ。何も躊躇わないで誰かを殺せる人間が、おかしくないわけないだろう。………生きていて良いわけがないだろう………」
言い終えると、辺りに静寂が戻る。
しかし、それも束の間に破られた。未だに大粒の涙を零したグリセルダさんは、事もあろうに俺を無理矢理起こし上げて、抱き締めていた。
「………ごめん、なさい」
いつか、こんなことがあった気がする。
定かではない記憶を探ろうとする俺に、嗚咽の混じったグリセルダさんの声が響いた。
「あの時………半年前のあの時も、どうしてこう出来なかったのかな………私、ただ自分が怖い目に遭ったってだけで、それだけでいっぱいになって………必死に戦ってくれたスレイド君に、………辛いこと全部押し付けて……………最低よね………こんな弱い想いで親友なんて気取ってたんだもの…………でも、今更だけど…………スレイド君には、どうしても生きて欲しいの…………」
言葉を詰まらせながらも言い終え、グリセルダさんは一層強く腕に力を込める。
その言葉が、温度が、心が、俺にはとても痛かった。嘘偽りのない行為だとしても、いやむしろ、だからこそより苦痛は増すばかりだ。
「………無理だ。もう、生きたくない。人を大勢殺した罪なんて、どだい俺には抱えられる代物なんかじゃないんだよ」
この温度を享受したくても、罪の意識がそれを許さない。
目の前に倒れ伏した物言わぬ骸の群れが、俺の行く先にさえ転がる彼等が、俺に救済を赦さない。
決して、救済を求めないのではない。手が届かないから諦めただけ。
そして遅かれ早かれ壊れた俺が誰かを襲わないとも限らないから、だからこそ自ら終止符を打とうとした。
自分の犯した罪が怖い。
それを知られるのが怖い。
でも、逃げ場のないこの世界から抜け出すなんて、一つしか思い浮かばなかったというのに。
「………でも、助けてくれたじゃない」
怯えた心を打つように、言葉が告げられる。
まだ涙混じりの湿った声なのに、妙に力強い一言が、胸の奥に突き刺さったものを揺るがした気がした。
「スレイド君は、殺人鬼なんかじゃないわよ………誰かを助ける為に最善を尽くしてくれているだけ。だから………一人で抱え込まないで。逃げ出した私なんかが言っても、もう届かないかも知れないけれど………貴方が追った苦しみは、きっと助けられる側にだって抱える責任があるんだと思う………だから今からでも良ければ、荷物を私に分けて欲しいの」
「何を、言っているんだ?」
「私も、貴方の罪を背負う
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