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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第1章終節 離別のポストリュード  2024/04
10話 深淵と日向の狭間
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速に全快し、複数発生していた状態異常を報せるアイコンも消滅してしまう。ただ、荒い息遣いと震えのみが身体に染みついて残っているだけだった。

 突如として現れた人物は今も存命している俺を確認するように頬に手を伸ばし、そっと撫でると大粒の涙を零し始める。声を抑えているものの、掠れた声には安堵したような色が窺える。俺としては、どうして彼女がここを訪れたのかが判然としなかった。


「みんな、助かったの………無事だったんだよ………スレイド君………」


 ポツリポツリと、涙と共に言葉が零れた。
 後ろで束ねていた髪は、衝突の勢いで紐を切ってしまったのか解けてしまっている。制動さえないままに突っ込んで来たのだから、その必死さは推して量るべきだろう。でも、何故だろうか。そこまでして彼女に、――――グリセルダさんに俺を助ける理由なんてあるだろうか。

 かつての仲間が無事であったならば、それで良かったじゃないか。俺も義理を果たせたんだ。それについては喜ばしい。
 だが、俺のもとに訪れる理由なんてないだろうに。こんな人殺しのところに来たところで、ましてや助ける理由なんてどこにあるのか。


「………スレイド君がこの事件を教えてくれたから、旦那もこれ以上道を踏み外さずに済んだの………黄金林檎のみんなだって、無事だった………なのに、どうして……ッ………どうして貴方だけ死のうとするのよ………!?」


 徐々に勢いを増す炎のように語勢が増し、終いには絶叫じみたものになる。
 既に精神が擦り減った俺には何を言い返そうにも思考が巡らない。ただ、声を情報として受容する程度しか望めない。しかし、希望を抱いてしまう。生きても良いのだろうか、許されるのだろうかという、その後に振りまくであろう不幸さえ顧みない悍ましく歪んだ希望を。

 しかし、だからこそ解せない。
 あれほどまで拒絶した俺という存在を、今になってグリセルダさんはどうして生かそうとするのか。
 俺の危険性は、殺戮の現場を目の当たりにしたグリセルダさんが最も良く知るところだ。それを考えると、グリセルダさんの言葉に違和感を覚えてしまう。
 それでも、せめて投げ掛けられた問いには答えるべく声を絞り出した。


「………また、殺したからだ」


 涙を流したまま、グリセルダさんは変わらず視線をこちらに向けてくる。
 一拍おいて、整理した言葉を連ねて続けた。友人の愚かしい行為を止める為に。


「相手は、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》だったか………。リーダーと幹部二人に引き連れられて、かなりの数が丘の上を目指していたのを見つけた。………すぐに気付いたよ、こいつらが黄金林檎のメンバーを狙ってるってな。場所も目と鼻の先だ。このまま様子見しても意味は無いし、放置するなんて
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