第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
10話 深淵と日向の狭間
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めるべくもない。
スキル《秘蝕剣》の名が指すところは、恐らくは習得したものの精神を試すためのものだったのだろう。他者の命をたちどころに削り、スキルを与えられた者の精神を秘かに蝕む暴力。
あの時、このゲームが正式に開始されたあのチュートリアルで、茅場を名乗るアバターは明言したのだ。
――――《この世界を創り出し、観賞するためにのみ、私はソードアート・オンラインを創った》
ならば、このスキルを宿したプレイヤーの変貌はさぞかし愉快な演目になることだっただろう。
過ぎた力に溺れた者の末路が如何なるものか、ともなれば俺はさぞかし得難い玩具であったことだろうに。
だが、思うようになってやれないのが気味の良いところか。
創造主が目にするのは、傲り昂った殺人鬼でも、恐怖の末に駆除される魔王でもない。
力に疲弊して自滅する弱者という、凡庸にもならない三文小説のような終焉を、誰が期待しようか。
だが、それでも人間としての矜持を失わずに死ねるならば、俺には過ぎた恩赦だ。
右手に握った毒剣が逆手に半転する。
左手は鍔に添えられて、鋒は防具のない喉に向けられる。刺したままにすれば状態異常で事もなく済むだろう。自害には十分過ぎるダメージだ。
二度、三度、息を吐いて呼吸を整える。
耳に忙しなく響く拍動はもう最期まで鳴り止むことはないだろう。
指の力が抜けそうになるのを必死に堪えて、最後に深く長く息を吐き、刃を喉元に引き寄せた。
手元が狂って深く突き刺さることはなかったが、それでも継続ダメージによって状態異常を示すアイコンは徐々に数を増やしていった。惜しむらくは発生確率を耐毒スキルによって抑えられてしまっていることと、戦闘回復スキルによる自動回復がHPバーの損耗を抑えてしまっていることくらいか。それでも、減少する速度からすれば、もう五秒も待たずに俺はゲームオーバーを迎える。
やっと終われる。
震えて、途切れ途切れに吐き出した溜め息は、しかし次の瞬間に残りの呼気ごと肺から押し出されることとなった。
――――凄まじい勢いで迫った質量に弾き飛ばされた。
俺の認識できる範囲では、この現象をそう結論付ける他なかったのだ。
おかげで剣は手から滑り落ち、金属音を響かせて遠ざかってゆく。
代わりに、腹の上に馬乗りになって見下ろす双眸に思わず目を剥いた。
「………なんで………、ここに?」
問いかけは森の霧に吸い込まれてしまったかのように、誰も応じることはない。
代わりに現れた人物は、剣の鋒が刺さっていた場所にピンク色と緑色の二つの結晶アイテムを押し付けて発動させた。それによって危険域まで落ち込んでいたHPは急
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