第6章 流されて異界
第143話 太陽を纏いし女
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……。
これは機嫌が悪い……と考える方が妥当か。
おぉ、機嫌が良さそうだな、これはラッキー、……などと考えられるほど俺は単純に出来てはいない。そもそも、彼女の機嫌が良くなる要素など今は皆無。
当然、おはようの時間までに帰り着く事が出来なかった正当な理由はある。
第一に、自らの負傷の治療に時間が掛かったから。眼も見えず、どうやって滑らかに関節が動いているのか謎だらけの木製の腕でハルヒの前に現われるのは流石に問題が……。
次は異界から漏れ出して来ていた邪気を祓うのにも手間が掛かった。そもそも、異界から現実世界に召喚されようとした邪神を追い返しただけで、めでたし、めでたしと終わる昔話や英雄譚のような訳には行かない。流石に彼奴は古の蛇神。それも、縄文の縄模様の元となった可能性もある古の蛇が怨みを糧に、冥府より召喚されようとしたのだから、その穢れの大きさは推して知るべし。
早急に処置をしなければ、ここは危険な場所となる。そう感じられる場所の中の一部にしか手を掛けられなかったが、それでも午前中は完全に吹っ飛ぶぐらいの時間が穢れ払いを行うのには必要だった。そう言う事。
しかし、それは、こう言う世界。魔法やあやかし。邪神や悪鬼、異世界の住人などが関わっている事件に対処する人間たちにのみ通用する理由や理屈。そして、今、この部屋の中で静かに怒っている少女は、そう言う世界とは表向き関係せずに生きて来た人間。
俺が忙しかった、などと言う理由を寸借してくれる事はないでしょう。
まして、朝になってから。常識的に考えて妥当な時間……例えば九時以降に電話を掛けて、こちらの状況を伝えるぐらいの手間を掛けても問題はなかったのに、そんな事もせず、結果として彼女一人を情報から隔絶されたここに放置状態へとして終ったのも事実ですから。
口ではなんのかの、……と言ったトコロで、俺を含めた全員の事を心配していたはずなのに、彼女に全員無事だと言う事さえ伝えずに今まで過ごして終いましたから。
かなり重い足取りで扉を開き、和室と旅館の廊下を繋ぐ暗い部屋に入る。
どう話し掛けるか。基本は普段通り少しいい加減な感じで。それが無難か。……などと考えながらも、矢張りかなりの逡巡を持って目の前の襖に手を掛け――
「ただい――」
おそるおそる……やや伏し目がちに襖を開ける俺。その瞬間、柔らかい、そして、少し良い香のする何かと正面衝突!
「――ま」
一瞬、何が起きたのか理解出来ずに呆然と仕掛けて、足元に転がる白いマクラを見つめる俺。但し、それは本当に一瞬の事。
そして、
「……ハルヒ。オマエ、暇やな」
完全に包帯で包まれた状態の右手で、かなり納まりの悪くなったメガネを整えなが
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