第6章 流されて異界
第143話 太陽を纏いし女
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え出来ず、冬枯れの芝生の上に座りこんで居る俺の頬に少し冷たい手が触れた。
「問題ない」
俺に安心をもたらせる彼女の声と雰囲気。限界まで酷使され、相性の悪い迦楼羅の炎に焼かれた身体は休息を要求し――
刹那!
引き寄せられる身体。彼女の胸の中で、見栄とやせ我慢のみで保っていた身体が溶けて行く。
柔らかな何かに触れ、身体のすべてが花の香りに包まれる感覚。このまま眠りに落ちて仕舞いたい。そう言う、強い要求が心の奥深くから湧き上がって来る。
「もう大丈夫。あなたは何も心配する必要はない」
耳元で囁くように続けられる彼女の言葉。完全に力を失い、崩れ落ちそうになる俺の身体をよりいっそう強く抱きしめる有希。その言葉には力があり、乱れた心が鎮まって行く。
おそらく、この世界に召喚された時と同じように彼女の制服を俺の血が汚している。そう言う状況。
ただ……。
ただ、彼女の腕の中はとても温かで――
☆★☆★☆
少し薄暗い、と表現すべき旅館の廊下。泊まり客の存在しない其処は、何故か冷たく、そして少し不気味な雰囲気を醸し出している。
そう、普段なら豊かな色彩と香りで逗留する旅人をもてなすはずの生け花さえも存在する事もなく、掃除の行き届いた床には、其処に幾人もの人々が行き交った残滓さえ感じさせる事もない。
空調システムが切られたこの場の澱んだ空気自体が生命の存在を感じさせず、高い天井から照らす照明は最低限度に抑えられた状態。そのほの暗く、何処までも静かな雰囲気から、まるでトンネルの中を進んでいるかのように錯覚させられる。
出掛けた時にこの場所を通り抜けた時と比べると五割増しほどの時間を掛けて、その長い廊下の果てに存在している部屋の前に立つ俺。
時刻は既に朝食の時間を遙か彼方へと置き去りにし、そろそろ昼食の時間が近付いて来たかな、……と言う時間帯。
少しの躊躇いの後、インターフォンを押す。もっとも、この部屋は俺の為に用意された部屋なので、その部屋の主が戻って来た事を告げる事に本来、躊躇いなど必要はないはずなのですが……。
ただ、昨夜出かける際に、次に会うのはおはようの挨拶の時だな、などと大見得を切って出掛けた挙句、実際に戻って来たのはこんにちわの時間帯では流石に……。
「はい、開いているわよ」
しかし、インターフォンの向こう側から聞こえて来た声は普段……よりも少し落ち着いた雰囲気のハルヒの声。
普段の彼女なら、何時まで待たせたら気が済むの、だの、いい加減に時間厳守と言う言葉ぐらい覚えたらどうのなのよ、などとグチグチと文句を言った挙句に、罰金として昼飯を奢れとか言い出すのですが
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